第03話 年代記【月虹・木蓮の兄妹】

 セフィロトの大図書館に来ての初任務は、当たり前だが年代記《クロニクル》の攻略だ。
 年代記は各シリーズごとに何冊も存在しており、一冊当たりに最低でも一人、多くても四人から五人のキャラクターが記されている。メタな話をすれば、実装された時期ごとに章分けされているといった感じだ。

 リコレクションズでは年代記の攻略時にプレイヤーがキャラメイクしたマイキャラと、仲間四人までが出撃枠に設定できる。マイキャラはこの世界ではタマキが該当するだろう。なので残りのメンバーは新人である俺以外に、歩兵の剣士であるドルフ、斧騎士のルーファスに氷の貴公子だ。
 俺とドルフが歩兵の剣士系というところで被ってしまっているが、スキル面ではドルフは自分から攻撃したほうがよく、俺のほうは敵が攻撃してくるのを待ったほうが良いという点で役割分担ができる。
 タマキは僧侶ベースの軍師《ストラテジスト》らしいので、守備関係に不安があることから一番後ろ――状況によっては四人で囲むよう中央に配置になる。

 今作におけるシリーズお馴染みの宝物【レギンレイヴ】は、プレイヤーである軍師が持つ指揮杖が該当する。正式名称は【追憶のレギンレイヴ】だ。
 これにより戦闘ユニットとしてのレベルとは別に、マップ攻略時などに消費する行動力の上限などに影響するプレイヤーレベルが一定数上がるごとに使用できる軍師《プレイヤー》スキルが増加するのだ。タマキのプレイヤーレベルは12だそうだから、3つのスキルが解放されていることになる。
 最初から持っているものも含めて二つはマーリンが持っているスキルと大差ないが、三つ目以降に習得する軍師スキルは奥義スキルのゲージを即時発動可能な範囲まで増やすとか、敵の移動範囲の制限とか様々ある。

 今回俺たちが向かう年代記は【月虹・木蓮《マグノリア》の兄妹】。おそらく原作ゲームのほうの『月虹のレギンレイヴ』の年代記だ。
 そして辿り着いた戦場は、とある砦――具体的な場所は明言されていないが、原作ゲームでイレーヌが捕らえられていたマップと同じような間取りの場所だ。このマップは前世で攻略済みなので、予習はバッチリである。

「今回書き換えられちゃったのは、マグノリア王ウォルターさんと妹さんたちの年代記《クロニクル》ですね」

 原作ゲームでは反乱を起こした責任で捕らえられてしまったイレーヌを救出するための章なのだが、この年代記では話が異なる。
 何がどうしてそうなったのかは不明だが、イレーヌたち天馬騎士団がウォルター率いる竜騎士団を追い詰めているのだ。対するウォルターの手勢は数機の竜騎兵《ワイバーンライダー》のみである。イレーヌ達は天馬騎士《ペガサスナイト》と天馬騎兵《ペガサスライダー》――要するに飛竜と天馬の力関係が逆転しているのだ。
 ついでい言えば、仲間になった際と年代記で敵対していたときだとステータスの数値が違ったりする。おそらくは難易度なんかの問題なのだろう。キャラクターによっては数字が大きく違うことがあるので正直辛いのだが、原作では弱いキャラクターも敵になっているとはいえ強くなっているのを見るのは嬉しかったりする。

「イレーヌさんたち三姉妹は全員が『飛行特攻無効』のスキルを持って居るみたいですので、ミシェルさんは他の敵を優先的に狙ってください」

 慣れていないプレイヤーがよく確認しないで、このマップに弓兵だけで突撃して玉砕したという話は多数聞いた事がある。しかしだからといって槍に有利な斧ばかりで編成したら、『相性反転』持ちが結構な確率で混ざっていて事故死が起こるのもこのマップである。ようするに斧と弓はひとりずつにしておくのがいい。

 メテオライトから聞いた事前リサーチによるとタマキはシリーズ初心者だが、そこそこに遊び慣れてきたところくらいだそうだ。出撃前は敵の編成とスキルに装備、マップ上の地形や配置に移動範囲など全て確認した上でしっかりと対策を練り攻略をして居るらしい。
 今のところ攻略に失敗しているのは高難易度の年代記だけだそうなので、難易度中くらいのこのマップは問題なく攻略できるだろう。

 ちなみにSNSでの黒やんからのこぼれ話によると、このマップはリコレクションズからの新スキルや仕様が原因で届いた『弓による攻撃で飛行特攻が発動しないバグがある』とか『武器の相性が間違えてる』などの問い合わせにキレたスタッフが、『説明文くらいちゃんと読んでから問い合わせしろよFAQ!』と叫びながら作ったものらしい。なお出典元である各シリーズでは『飛行特効無効』のスキルは昔からあったのだが、所持しているのがウォルターのようなボスクラスの竜騎士だけで味方は未所持である。

 なのでタマキのようにしっかりとテキストを読み込んでいるプレイヤーは剣士系を二人連れていく。なお所持キャラによっては、この剣士の一枠を|踊り子《ダンサー》か吟遊詩人《バード》などの再行動役にするのも悪くない。

「このターン、エリアスさんは一マス下がって待機! ミシェルさんはエリアスさんに隣接してバフを付けてください! ルーファスさんはドルフさんと場所を入れ替わって、ドルフさんは杖で回復しきれないので傷薬も使ってください! 次のターンでウォルターさんに合流します!」

 原作ゲームの氷の貴公子には味方へバフを盛るスキルは無い。しかし彼には一応『策士』という設定があったので、それっぽいものをソシャゲ用に追加したらしい。兵種スキル二つと個人スキルの奇襲、あとはこの隣接する味方へのバフ【守備の策略】の四つを所持している。
 スキル数はレアリティ準拠で、俺たち☆4はパッシブスキル四つを所持する。☆5だと更に奥義と呼ばれる攻撃スキルを所持していて、その攻撃性能は守備貫通だとかダメージ三倍など破格のものだ。専用奥義組になると死亡回避とか、汎用奥義の複合型など面倒なものを持っていたりする。なおタマキのガチャ運はそこまで良くないらしく、このセフィロトにいる☆5は配布キャラだけらしい。

 この年代記ではウォルターは友軍ユニットとして参戦するのだが、それと同時に敗北条件でもある。周りの竜騎兵たちは生存数によってクリア後の報酬が変わる程度だったはずだ。
 だがウォルターたちは安全なところに撤収してくれるわけではないので、なるべく早めに合流し壁になってやる必要があるのだ。
 武器の相性を気にしながら敵を倒しつつ進んでいくと、肉眼でウォルターの姿が見えるところまで辿り着く。

「くっ、調子に乗るなよ!」

 天馬騎士あいてに苦戦中のマグノリア王ウォルターは、既にHPが半分近くまで減っている。なぜ軍師《ストラテジスト》でもない俺に他人のHPが解るのかというと、リコレクションズではHPが半分以下になると立ち絵が服ビリ差分になるからだ。これは老若男女問わず全キャラに適応される。
 キャラクターの中には服というより紐を着ているような者たちもいるので、なかなか際どいシステムでもあったと思う。

 ターンを跨いだところで移動を開始すると、俺たちはウォルター達の盾になるように布陣した。タマキは後衛で杖を振り、竜騎士団の治療をしている。
 俺たちは協力しながら天馬騎士団を迎え撃つと敵は少しずつ数を減らし、残るはイレーヌたち三姉妹だけとなった。

 一度体勢を立て直すためにタマキがマップアイテムである『流水の玉《ぎょく》』を使い、味方全員を完全回復する。しかしこのアイテムは前世では課金アイテムだった。一応はイベントなどの報酬で配布もされるが、月に一個か二個もらえればいいほうだ。なのでタマキが所持している数も少ないだろうから、気軽には使うことが出来ない。

「歪みの元を引き摺り出すために、ここは一気に攻め込みます! ルーファスさんを先頭にミシェルさんが攻撃を受けないよう進んでください!」

 友軍であるウォルターたちはこちらの都合などお構いなしに進軍していくAIだったのだが、この世界でもその点は変わらないようだ。歩兵と騎兵しかいない俺たちなどお構いなしと言わんばかりに、地形に関係なく悠々と移動していく。
 スマホゲームと言うことで他のシリーズよりマップは遥かに狭いのだが、その代わりなのか侵入コストが発生する地形がそれなりに設置されている。この砦内でいえば、一階から二階へと向かう階段だ。ゲーム内の表示では一マスだったが、飛行ユニット以外はその一マスを通過するのに一ターン消費する。何せ段数が多いからな、仕方が無い。

「居ました! ウォルターさんたちと戦闘中です!」

 俺たちが階段を上りきったところ――砦内部でも吹き抜けになっている辺りで、交戦中のウォルターとイレーヌを見つけた。

「ここからじゃ僕たちの攻撃は届かないね」
「俺の攻撃力じゃ特攻が乗らないのであれば、イレーヌ王女の守備は抜けないな。先に向こうを片付けるか?」

 ドルフの言葉に氷の貴公子が指し示したのは、竜騎士たちと互角以上に渡り合っているジゼル王女とシュゼット王女だ。あの二人はイレーヌ王女に比べると守備が低めなので、飛行特攻が乗らなくても弓でダメージが入れられる。
 タマキもその提案に納得すると、俺たちは二手に分かれてコの字型になっている足場を進んでいく。

「ここからならば外しはしない」

 一応言っておくとリコレクションズでは命中率と回避率は廃止されている。理由はシリーズごとに計算式が違うからと、ただでさえ処理する情報が多いシミュレーションRPGだ。初心者にはこれが取っ付きにくいので、システムを簡略化するためである。あとはシリーズお馴染みともいえる、肝心な場面で命中率99パーセントを外したことがある皆のトラウマの除去だ。

 氷の貴公子が放った矢は美しく弧を描き飛んでいくと、ジゼル王女を射貫く。流石にこれだけでは倒せないので、俺はすかさずこのターンの行動が終了した氷の貴公子と場所を入れかわる。
 俺が立っている場所はジゼル王女の移動範囲ギリギリだ。隣に移動させた氷の貴公子は攻撃範囲外になるので、次の敵のターンは俺が戦闘を行うことになるか竜騎士たちが戦うかのどちらかだ。この辺りはバフなどを差し引いた守備の数値が低いほうを優先してくる。なので細かい数値までは覚えていない俺には判断できない。
 しかし先ほどタマキがこの作戦を提案してきたと言うことは、敵を釣り出すことが出来ると判断したからのはず。

 予想通りジゼル王女が俺のほうに接近して攻撃を仕掛けてくる。武器の相性ではこちらが不利だが、そのあたりは守備でカバーできる範囲だ。対岸ではルーファスがシュゼット王女と交戦しているのが見える。
 俺はジゼル王女の攻撃をやり過ごすと、氷の貴公子が削り切れなかった分のHPを削りきる。シュゼット王女も倒したのを確認すると、その後はウォルターに合流し残るイレーヌ王女を撃破した。

「イレーヌよ。このようなやり方、お前らしくもない。気でも狂ったか?」

 兄妹のあいだに戦闘後のイベントとして会話が発生する。しかしまだ戦闘は終わっていないのだ。
 倒れていたイレーヌ王女たちの口が大きく開くと、そこから人間の赤ん坊程度の大きさをしたクリオネによく似た魔物が出てくる。これが年代記が変異した原因である『|歪みの精《ディストーション》』だ。

「出ましたね! さあ、やっつけますよ!」

 タマキはリカバリーの杖をぶんぶんと振る。回復役である僧侶系は攻撃性能は無いのだが、気合は十分らしい。

 歪みの精は飛行系の魔導士ユニットになる。弱点は物理攻撃全般で、他の飛行ユニットと同じように弓と風魔法から特攻を受ける。
 リコレクションズだと魔導士系は攻撃の射程が2なので、射程1の俺たちであれば反撃を受けずに攻撃できる。四方を囲んでしまえば相手は魔導士系に攻撃されたとき以外は何もできなくなるので、まずは囲むのが基本である。なお歩行の弓兵は射程が3なので、柱や壁などの遮蔽物を上手く利用すれば無傷で一方的に殴り続けることができる。

 騎兵であるルーファスは俺たちの中で一番移動力が高い。なのでイレーヌ王女から出てきた歪みの精の向こう側に回り込んで貰う。近くにいたウォルターも逃げ場を塞ぐように立ち塞がり、残りの二辺は俺とドルフで塞ぐ。
 後衛であるタマキと氷の貴公子は残る二体の歪みの精を攻撃しに向かう。タマキは魔防が高いらしいので、歪みの精の攻撃が通らない。なので攻撃は全て氷の貴公子が受けることになるだろうが、ウォルターの手勢である竜騎士団も手を貸してくれるので一人だけ殴られることは無いだろう。タマキの回復があればどうにかなるだろうし、竜騎士団がどちらか一方を囲んでくれればパターン入ったも同然で勝利が確定だ。

 そのまま歪みの精は退治され、イレーヌ王女は原作通り捕らわれの身となった。妹たち二人は少し目を離した隙に逃げたようだ。おそらくは原作ゲームでの初登場時と同じように、ルイス王子に助けを求めに行ったのだろう。

 タマキはウォルターに簡単な事情を説明すると、当たり前のようにそれを受け入れてもらえる。この辺りはお祭りゲーム補正が掛かっているのだろう。助けた竜騎士団も素直に治療を受けてくれている。

「ウォルターさん。ここ怪我してますよ」

 タマキは杖を掲げウォルターを治療すると、彼の怪我は綺麗に消える。何故だか知らないが服ビリも元通りだ。リコレクションズにおけるHPとは本人の生命力というよりも、服の耐久度とかを指している疑惑すらある。

「ふん……酔狂な奴め」

 助けられたというにもかかわらず、ウォルターの態度は普段通りに不遜だ。しかしギリギリとはいえ彼の部下が全員生存した状態で、この年代記をクリアすることが出来たのならば『あれ』を貰えるはずだ。

「褒美だ。とっておけ」

 タマキが受け取ったのは、ウォルターを確実に召喚できるチケットだ。このアイテムのデザイン自体は普通のブックマーカーなのだが、顔のアイコンと共にキャラクター名――場合によっては異名や役職が描かれていた。
 そのことから実装当時は『マグノリア王に名刺もらった』などと言われていた。彼のように原作で敵だったキャラクターは通常ガチャからも排出されるが、それなりに人気のあるキャラクターはこうして配布もされる。
 
「わ~い! 噂に聞いてたマグノリア王の名刺です~」

 年代記から帰ってくると早速ウォルターを召喚するつもりなのか、タマキは召喚の間へと向かった。しかし、いつまで経っても儀式を始めようとしない。手に持ったチケットを上げたり下げたりしながら、うんうんと唸っている。

「う~ん。でも、なんだか使うのが勿体無いです」

 これから訓練マップを周回するのも疲れているから無理だと言いながら、今日は召喚を止めておくようだ。
 俺たちは任務の成功をお互いに労いあうと、そのまま解散となった。しかし氷の貴公子に捕まった俺は、セフィロトの街に連れ出され夜遅くまで酒の相手をすることとなったのだった。
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