第七十三話 幸せのブーケ

(改)2019/08/30
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 場所はローレッタ聖王国の王都アヴァロン――ハール教の神殿に近い貴族御用達のティールーム。俺たちはお茶を楽しみながら午前中いっぱいは時間があるので、ここで時間を潰しているところだ。
 俺はメテオライトに暇を見て書き出してもらっている【漆黒のレギンレイヴ】のシナリオに目を通している。
 ミシェルは同じく書き出して貰っている【レギンレイヴ・リコレクションズ】を読んでいた。俺が覚えている範囲だけになるが、システムなんかを教えたりもしている。

「私もリコレクションズで遊びたかったです」

 邪竜ロキとの戦いから約一年経った今日。グレアム王子が戴冠し聖王となったのに続き、王妹となったフェイス様の婚姻の儀が行われる。
 現在は王族と司祭たちだけの儀式の最中で、正午を過ぎてからのお披露目の時間まで俺たちは目通りが叶わない。

「ミシェルの前世はリコレのサービス開始前に死んでるんだったな。そのうえ漆黒はミリ知ら状態だもんな」

 氷花はその鬼畜難易度から、前世のお兄さんたちに止められていたと聞いていた。しかしリコレに関しては、あの戦いが終わってから「そういえばなんでルイス王子以外にも、知っている声優さんが付いておりますの?」と聞かれたのが切っ掛けだ。
 ルイス王子は別作品にもゲスト参加しており、その時に声が付いている。

「そういえば聞き忘れていたのですが、エリアスの声は鈴木。テオの声は斎藤姐さん。オニキス様は高橋兄貴ですけど、お師匠様の声ってどなたでしたの?」
「マーリンの声はデビューしたての新人さんだよ。調べた時に出てきた役も生徒Aとかばっかりだった」
「まあ、そうでしたの。でもとてもいい声ですわね」

 ミシェルは前世で夢小説に嵌っていたと同時に声優さんも好きだったらしい。俺は好きな作品に出ていた人くらいしか分からないのだが、彼女はなかなか詳しそうだ。

「まあ、あなたの声が一番ですけどね」

 そう言いながらミシェルは俺の肩にもたれ掛かる。本当は寂しがりやな彼女のことだから、俺の小さな嫉妬にも気づいてくれたのだろう。子猫のようにすり寄ってくる姿が愛らしい。

 今の俺の立場はミシェルの婚約者候補の有力株だ。とはいっても殆どの人間が俺とミシェルの睦まじさを目の当たりにして、辞退ないしは遠慮している。なので実際は俺がプロポーズすれば婚姻まで進められるだろう。
 問題は納得いく指輪がまだ用意できないことだ。大公が奥方に送った指輪のように、俺もミシェルに思いの詰まった指輪を贈りたい。

 正午を告げる鐘の音が響くと、俺たちは神殿に向かう。神殿の敷地内は淡い色合いの花とリボンで飾られており、花びらの入った籠を持つ僧侶たちが扉の側に立っている。俺たち二人は僧侶たちから籠を受け取ると、並んで扉の脇に立つ。向かい側にはメレディスたちが同じように立っていた。

「フェイス様の花嫁姿、楽しみですわね」
「そうだな」

 ウエディングドレスの仕立て時は護衛とはいえ男の俺は同席していなかったし、ミシェルも魔導兵団での仕事で来ることが出来ずにいた。なので本当に楽しみである。

 次々に参列者が集まったところで、お披露目の時間となる。司祭様が口上を高らかに読むと荘厳な扉が開かれ、新郎新婦であるフェイス様とオニキスが姿を現す。

 皆が口々に祝福の言葉とフラワーシャワーを投げかける。中には感極まって泣いているものもいるようだ。ミシェルも勿論感動しているようなのだが、どちらかというと――

「見て! エリアス見て!」

 一言でいうなれば『尊い』――この一言なのだろう。最低でも月一で開催される【フェイス様の美しさと優しさと聡明さを語らう会】での彼女に負けず劣らずの賞賛っぷりである。しかもドレスを飾る刺繍の模様や、花々の解説までしてくれる。

「さすがはフェイス様。意匠一つにしても完璧ですわね」

 お披露目は滞りなく進み、後は軽い立食パーティが庭園で行われる。順にだが新郎新婦と歓談も出来るそうだ。だがその前にブーケトスが行われるようだ。
 庭園にある東屋《ガゼボ》には未婚の女性たちが並び、今かいまかと待ち構えている。その姿は見ていて鬼気迫るものを感じた。俺の知っている女性陣で参列しているものは殆どが既婚、ないしは決まった相手が既にいる。なので見知らぬ令嬢がほとんどだ。

「フェイス様のブーケ取らなくていいのか?」

 しかし一回限りしかないフェイス様の結婚式のブーケトスだ。ミシェルはこれを取りに行かなくていいのだろうか。単純にそう思い聞いてみただけなのだが――

「私としたことがっ!? フェイス様のブーケ~!」

 ミシェルが慌てて女性たちの群れに飛び込もうとしたところで、東屋に居たフェイス様がブーケを投げた。
 高く弧を描き飛んできたブーケをミシェルがキャッチすると、勢いが余ったのかバランスを崩して地面へと倒れこみそうになる。俺は彼女が転ばないようにと、その身体を支えた。まるで羽根のように軽いミシェルの身体が俺の腕の中にすっぽりと納まる。

「そういうわけで次の花嫁は私だから、頑張ってくださいな」
「勿論。俺は必ず君にふさわしい男になるよ」

 手にしたブーケを見せてくるミシェルの手を取る。そのまま、どちらからともなく口付けを交わした。
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