第七十二話 隠し事の正体

(改)2019/08/30
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 腕の中にミシェルを抱えたまま、俺は皆と一緒に地下神殿を後にした。地上に戻ると待機していた仲間たちが迎えてくれる。
 ルイス王子の婚約者であるブリジットは余程心配だったのだろう。大粒の涙を流しながらルイス王子に抱き着き、無事を喜んでいる。

「エリアス。お疲れさん!」

 城内とは言え、地上の明るさに眼を慣らしているとロビンが近づいてくる。両手には今にも零れ落ちそうな数の傷薬が抱えられている。
 一緒に残っていたメレディスはというと、フェイス様のほうに行っているようだ。向こうのほうで抱き合っている姿が見える。

「ミシェルは一体どうしたんだ? 怪我をしてるわけじゃ無さそうだけど……」
「邪竜を封じたと思ったら安心して腰が抜けただけです」

 ロビンの質問に間髪入れずにミシェルが返答する。今の今までずっと顔を埋め隠したままだったというのに、そこにはいつも通りの彼女が居た。

「そういえばメテオライト王子から伝言を預かっていたんだ。エリアスとミシェルに話があるとかで、東にある庭園で待ってるってさ」

 それじゃあ邪魔者は退散と付け加えながら、ロビンはメレディスのもとへと戻っていった。事後処理などは待機していたものたちで殆ど済ませていたようで、あとは残っている友好的な竜族との交渉くらいだろう。それに関しては王族たちの仕事なので任せるしかない。
 地下神殿から戻ってきたものたちは、それぞれ仲間に合流し身体を休めるようだ。なので今ここで外に行っても何ら咎められることは無いだろう。
 それに先ほどまでは戦闘続きで出来なかったが、メテオライトには聞きたいことがあるので丁度いい。

「そういえば【月虹のレギンレイヴ】のシナリオは終了したわけだし、テオの隠し事を聞けるんじゃないか?」
「いったい何を隠しているのかしらね?」
「実は宇宙人とか」
「隕石《メテオライト》だけに?」
「そうそう」

 いつかミシェルが聞いていたメテオライトの秘密。こんな風に揃ってお道化たやり取りをしているが、考察や萌え語りには参加してこないが知識は圧倒的となるとなんとなく察しはついてくる。
 過去に一度、レギンレイヴシリーズ公式からスタッフに不幸があったという知らせが掲載されていたことがある。【漆黒のレギンレイヴ】の制作発表後まもなくで、黒やんがその死を悼んでいたのを覚えている。たしか彼が入社するにあたって世話になったというプログラマーさんだ。彼であれば設定資料集にも未掲載の没になったアイテムなども知っていておかしくはない。

「なあ、ミシェル。なんか目立ってるし、そろそろ歩かないか?」
「あらあら、お姫様抱っこは乙女の憧れでしてよ?」

 お姫様抱っこのまま廊下を進み歩いていく。彼女の体重はさして問題ではないが、すれ違う兵たちから羨望の眼差しが痛い。一番痛いのは、どこかに隠れていると思われるヘルゲの視線だ。

「私にとって初めてお姫様抱っこですもの。もう少し抱いていてくださいな」

 そういって頬に口付けられる。これはもう周りの視線など気にせず、堂々とイチャ付くべきなのではないだろうか。原作ゲームでも戦場のど真ん中で恋人とイチャ付くのが俺なのだから何らおかしくないはず。

「ねえ、エリアス……私は今まで、大陸最強の魔導師を目指して研究に明け暮れていました。ですが平和になったのなら、少しは減らしても問題ありませんわよね?」
「魔導の研究が趣味なんじゃなかったか?」
「デートの時間を作って差し上げると言っているんです」

 ミシェルは少し頬を膨らせながら、白い肌を真っ赤に紅潮させている。今までにないほど甘えモードだ。

「フェイス様についた虫は払う必要も無いですし」
 それに、と続け――
「オニキス様は私が千切って投げられませんもの」

 庭園と呼ぶには草木がほとんど見当たらない寂しい場所、そこにはメテオライトが立っていた。少し離れた場所にはヘリオドールとジェイドが控えている。

「やあ、お疲れ様」
「ああ。石拾いは終わったのか?」
「どうにかね」

 そう言って袋から取り出し見せてきたのは、綺麗な球体――ではなく少し欠けある黒い宝珠だ。

「欠けている部分は、今までの戦場に出ていた合成獣《キメラ》の体内にあったんだろうね。別で保管している君たちから預かった分を足しても完成はしなさそうだ」

 合成獣は最初の一体であるハイドランジアの山道と、リリエンソール渓谷から王都アヴァロン手前までの戦いで姿を見ている。メテオライトに渡してあるのは前者の石なので、後者のほうは今さら過ぎて回収は難しそうだ。

「ところでこの状況はツッコミ待ちなのかい?」
「お姫様抱っこは乙女のロマンなのよ。テオもエルナさんにして差し上げなさいな」
「ええ~、エルナの性格的に吊り上げられた魚みたいになりそうなんだけど」

 いつも通りのやり取りをしたところで本題に入る。黒い宝珠の件は話が終わったのなら彼の秘密を知りたい。

「それはそうと、テオ。【月虹のレギンレイヴ】のシナリオが無事に終わったらの約束じゃなかったか?」
「そうです。隠し事などせず、いい加減すべて白状してくださいまし」
「僕の隠し事――正体とでも言うべきなのかな。そうだね……『レギンレイヴシリーズを誰よりもよく知り、愛した男』ってところだね」

 メテオライトが言ったフレーズは、レギンレイヴシリーズ十五周年記念のインタビューに掲載されていた一文だ。SNSのプロフィール欄なんかにも書かれている黒谷累《くろやるい》のキャッチフレーズ的なものである。

「ど……どうりで萌え語りに参加してこなかったわけですわね」
「ああ、そっちか。なんか温かい目で見てくることがあったのは、それが原因か」
「そっちか、ってエリアスは僕を誰だと思ってたのさ」
「プログラマーさんかと……」
「ああ、鷺沼《さぎぬま》さんか。でも残念、黒谷《くろや》でした~」

 そういってメテオライトは殴りたいまでの良い笑顔を見せた。しかし初めて会った時のように人を小ばかにしたような表情の下に、どこか慈愛に満ちた表情は毒気が抜かれる。
 こうなれば【漆黒のレギンレイヴ】のシナリオを書き出してもらおう。そうしよう。
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