第七十一話 月虹のレギンレイヴ

(改)2019/08/30
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 神光アルヴィトは最初に生まれた神器というだけあって他の神器よりも攻撃力が高い。なので契約者であるフェイス様が先陣を切って戦ってくれれば邪竜ロキとの戦闘も楽になるだろう。
 しかしフェイス様は聖王国の王女という立場だ。今回の戦乱が起こるまでは戦場などとは無縁の貴人でしかなかったのだから、恐怖で動けなくなってしまうのは仕方がない。本来であれば臣下である俺かミシェルが近くに侍っているべきなのだが、戦闘を長期化させるよりは速やかに終わらせて落ち着いてもらうのが一番だろう。

 少し離れた場所では少しづつだが落ち着きを取り戻したのか、恐慌状態だった二人がある程度だが動けるようになっているのが見える。治療を済ませたフェオやラーグたちもこちらに合流し、邪竜ロキへの一斉攻撃が開始された。

「エリアス殿。さっきはありがとう。お陰で冷静になれたよ」

 フギンたち二人を護るため、邪竜ロキの前に立った時と同じようにルイス王子と並ぶ。その表情は怒りに駆られていた先ほどとは比べ物にならないほど落ち着き払い、慈愛に満ちた表情をしている。
 フェイス様も一緒に移動してきたようで心配したミシェルが支えるように立つが、こちらも戦う覚悟ができたと言ったあの時と同じ決意に満ちた表情だ。

「六百年以上の年月を経てなお、邪竜ロキは他者を信じることも狂うこともできずにいる」

 神剣スクルドの刀身に額を付け祈るようなポーズをとるとルイス王子は再び、邪竜ロキとあいまみえる。

「彼にとって数百年の眠りというのは短いかもしれない。でもいつか救いが在ると信じて、僕はこの剣を振るおう」

 俺の持つ聖剣もルイス王子が持つ神剣も普通の竜族は殺すことができても、神格を有する竜族には一時的な眠りのみしか与えられないことを解っているのもあり憐憫《れんびん》の目を向ける。

 一歩おおきく踏み込むと一気に距離を積める。四方から攻撃されている邪竜は、それぞれ対応が間に合わずにいるのか弓と魔法による攻撃には反撃ができていないようだ。
 しかし邪竜ロキの足元にはオニキスとオブシディアンはダメージを一身に受けているのか、一度下がらせたほうが良さそうだ。幸いなことに兵種《クラス》:賢者《セージ》が三人もいれば治療も早く済むだろう。

「オニキス将軍、オブシディアン将軍! 一度後退し治療を――」
「まだ不要です。それよりも今は邪竜を」
「帝国が暫く大人しくなるというのであれば、ここで散るのも本望」

 ルイス王子がシスル騎士二人にそう声掛けするも、あっさりと断られる。確かに下手に後退するよりも一気に決着を付けるのはシリーズのラスボス戦の定番だ。全員でタコ殴りにして1ターンキルが出来るのであればそれに越したことは無いが、前世の経験からすると3~5ターンは掛かっていた。
 しかしさすがに前衛で戦っていると、こちらの攻撃時の反撃に、敵ターンの攻撃と受けるダメージが多い。

 オブシディアンは兵種スキル【守備方陣】の味方隣接で守備が上昇しているからダメージの軽減が出来ているのだろう。オニキスもHPと守備が限界突破しているから耐えられるだけで、実際はギリギリの場所で立っているのではないだろうか。

 少し後方から魔法攻撃を繰り出しているマーリンに目配せすると、今まで邪竜を殴るのに集中していたのだろうか魔導書から杖に持ち替えて接近してくる。
 ラーグにはそのまま遊撃に回ってもらい、ミシェルとマーリンで二人の治療を手早く済ませてもらう。治療中は余り動き回れないことから俺とルイス王子が前衛に立ち邪竜と対する。

「ちょろちょろちょろちょろと……小さき体で目障りだ!」

 転がるように邪竜のブレスを回避しつつ近づき聖剣を突き立てる。ルイス王子も同じように攻撃を繰り出し、邪竜の尾を切り落とすことに成功した。
 しかしまだ決定打には程遠い。動ける皆で殴り掛かっているというのに邪竜ロキの動きには、まだ余裕を感じる。

 ルイス王子とマーリンのスキル効果でステータス面は問題ないのだが、持久戦になると不味い状況になるのは変わりないだろう。
 だが後方から、持ち直したばかりのフェイス様が合流してくる。その手には白く輝く宝珠が握られている。

「月虹のレギンレイヴよ――邪悪な竜族を封じたまえ!」

 フェイス様が手に持ち掲げた宝珠の力で邪竜が弱るのが解った。本来このイベントは終章開始時に条件を満たしていれば勝手に起こるものだ。しかし先ほどの邪竜の復活時にフェイス様が動けなくなってしまったのもあって、イベントの発生が遅れてしまったのだろう。

 しかし邪竜ロキの動きが明らかに鈍った。氷竜族が生み出した宝珠の力で抑え込むことができた今が最大のチャンスだ。
 皆で畳みかけるように攻撃を加える。神器による波状攻撃に、邪竜ロキは大きな咆哮をあげ悶え苦しむ。

「ルイス王子、邪竜ロキに止めを!」

 神格を持つ竜族は死という概念から外れている。なので止めといっても一時的な封印を施すだけの子守歌のようなものに過ぎない。
 そしてシミュレーションRPG【月虹のレギンレイヴ】の主人公はルイス王子だ。ラスボスである邪竜ロキを倒す役は彼以外に居ない。俺は叫びルイス王子に伝えると、応えるように神剣スクルドを構えるのが見える。

「孤独で哀れな氷竜族の老人よ。再びの眠りにつくといい」

 ルイス王子が最後の一撃を叩きこむと、神剣スクルドが纏う神気が広がる。恨み言を発する邪竜ロキの身体は切りつけられた場所から少しづつ、ぶ厚い氷に包まれていった。

「君にも友と呼べる存在がいれば神話の時代から現代に到るまで、こんな悲劇は起こらなかったのだろうね」

 地下神殿で共に戦った仲間たちはそれぞれ、近くにいるものと勝利の喜びを分かち合ってる。
 これでローレッタ大陸も平和が戻る。これまで全部が原作通りとはいかなかったが、残りは平和に過ごせるはずだ。そう思ったら嬉しくて、この喜びに任せて勢いでミシェルに求婚してしまいそうだ。 
 しかし同じくこちらへと近づいて来てくれたのか、ミシェルがすぐ近くまできて倒れこんだのだ。

「ミシェル?」

 もしやどこか怪我でもしているのかと心配になり駆け寄る。しかし目立った外傷は得に見当たらず、ちらりとこちらを覗き込んでくる彼女の表情は心なしか恥ずかしげだ。

「あのね……少し手を貸していただけるかしら?」

 途中途中で治療を挟んでいるはずだから都度、大きな怪我があったら治療はしているはずだ。後衛に居たから尚更、少ないはず。なので足首でも挫いたのだろうかと思い、膝の裏に腕をやって抱き上げる。

「捻ったのはどっちの足だい? マーリンに診て貰おう」
「違うの。とくに怪我はしていなくて、あの、その……安心したら、気が抜けてしまって……ううっ、恥ずかしい」

 そう言って俺の首に腕を巻き付けると、真っ赤に染まった顔を胸に埋め隠してしまう。彼女からは、うっすらと花の香りが漂った。
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