第六十八話 大地を揺るがす咆哮

(改)2019/08/23
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 キルケだった砂の山から黒い宝珠と魔典ラグナロクが出てきたのを確認すると、俺はメテオライトのほうに目配せする。彼が一番、この黒い宝珠の扱いを知っているからだ。

「マーリン様。魔典ラグナロクは、お師匠様の屋敷で再び保管するってことで良いですか?」
「いや。暫く帰る予定が無いから、お前のところで保管しろ」
「そうでした。それじゃあひとまずは宝珠とまとめて僕が持っているとにしますね。エリアスもそれでいいよね?」
「良いも何も俺には扱いが判らないものだから任せるよ。それよりも、その魔導書って古の魔女の物だったのか」
「そうだよ。お師匠様が『古の魔女』と呼ばれているのは、古代魔法……現代でいう闇魔法の使い手でもあったからなんだ」

 メテオライトは砂の中から魔典ラグナロクと黒い宝珠を拾い上げると道具袋にしまい込む。神話の時代から生きているから古の魔女だと思っていたが、古代魔法の使い手だから古の魔女だったらしい。
 ミシェルたちが使っている魔法と古代魔法の違いを聞きたいところだが、今はそれどころではないので時間があるときにでも教えてもらえばいい。幸いなことに邪竜ロキを封じることができればシミュレーションRPG【月虹のレギンレイヴ】のシナリオは終わるので、以降はたぶん平和だろう。

 そもそも魔典ラグナロクは原作ゲームでも装備できるものが自軍に居ないのにドロップする謎の武器である。当たり前だが売却も不可能だ。古の魔女が保管していたものだったのなら、原作でドロップ品になったのはフレーバー程度だったのかもしれない。
 周囲を見渡し一通り戦闘が終了しているのを確認すると後退させていたヘリオドール達が合流してきたので、キルケとの戦闘中は俺より魔防が高いぶん壁になってくれていたメテオライトの治療をエルナに任せた。
 俺も少し怪我をしたが、被弾した回数は少ないのでミシェルが持っていたヒールの杖で治療を受ける。

「それにしてもさっきのが闇魔法っすか。今までそこそこの修羅場を潜ってきましたけど初めて見ましたよ」
「古代魔法はこちらでは闇魔法と呼ばれているのだったか。砂漠の向こうでは普通に見かける」
「こっちでも魔導書が手に入りやすければ僕も使うんですけどね~。マーリン様、どうにかなりませんか?」
「古代魔法は魔導書の修復が難しいから仕方あるまい。修復技能を身につけることだな」

 ヘリオドールの素直な感想を聞いてなのか、治療と並行しつつメテオライトたちは簡単な説明をしていた。
 設定資料集のスタッフコメントにあった『味方にも一人くらい闇魔導士が欲しかったけど容量の関係で無理だった』というのはメテオライトのことだったのか。ステータスに変更が無ければメテオライトの属性は闇属性だったはずだ。

「はあ~、やれやれ。お師匠様の遺品を無駄打ちするわけにもいかないし、厳重に保管するとしますか」
「何を言っている。テオは古代魔法に適性があるだろう。いざというときはそれで兵を護れ」
「はいはい。わかりましたよ……それじゃあ僕たちもルイス王子たちに合流しようか、といいたいところだけど」
「まだ何かあるのか?」
「僕は混沌の欠片をすべて回収しておくことにするよ。死体を漁りに来た獣が間違って飲み込みでもしたら大変だからね。君たちは先に行くといい」

 ここまでの戦闘で倒した合成獣や、石を埋め込まれた兵たちだった砂の山々を指差すと怪しく輝く黒い欠片が見えた。乱戦状態になったこともありその全ては把握できていないが、戦場全体に及ぶとなると回収には時間がかかるだろう。

「それもそうだな。テオ、気を付けろよ」
「エリアスこそ。ステータスはだいぶマシになったみたいだけど、無理はしないほうが良いんじゃないかい?」
「バフを貰えれば大丈夫だからな」
「はいはい。ミシェルのこと、しっかり護るんだよ」

 従騎士が連れてきた騎馬に乗り込む。城外の敵はあらかた片付いているので、邪魔が入ることなく敵の本城に辿り着けるだろう。メテオライトたちに見送られながら、俺たちは最終決戦の場へ馬を駆った。

「まあ、ここから先は僕たち神器を持たないものは足手纏いにしかならないからね。大人しく残存兵でも相手にしているよ」

 全く出来ないわけではないそうだが、乗馬はあまり得意ではないというミシェルを後ろに乗せ進んでいく。流石に戦場へ向かう部隊ではサイドサドルの準備が無いようだ。

「ところでミシェル。どうしてラーグにこっちへ向かうように言われたんだ?」

 シミュレーションRPG【月虹のレギンレイヴ】には、千里眼のような遠くを見渡すスキルは存在しない。なので離れた場所で戦闘していたはずのミシェルたちに、こちらの状況がどうして伝わったのか不思議でならなかったのだ。

「風の精霊に言われたみたいですわね。草原の民は風や大地の精と対話することが多いそうですから」

 なるほど。確かに草原の民たちは、都市部の人間たちとは違った文化を持っている。シスル王国における女神信仰も珍しいとされるが、草原における精霊信仰も珍しいと言えるだろう。

「それから、その……出発前にお父様から、エリアスの新しいスキルは私が近くにいないと発動しないと言われたのを思い出したから来ただけですのよ。戦略的に必要だったからですからね!」

 あのパーティ以降、ミシェルは俺の前でずっとこんな調子だ。彼女が言うように俺の新しいスキルが原因なんだろうが、そんなに恥ずかしがるものなのだろうか。彼女は少し頬を赤らめながら叫ぶと同時に城門まで辿りつく。
 この場所自体はすでにルイス王子たちによって制圧されており、城内ではすでに皇帝と対峙しているようだ。先行していた兵たちに聞きながら城内を奥へ奥へと進んでいくと、謁見の間と思しき荘厳な部屋にルイス王子と主力の兵たちが揃っているのを見つけた。

 ルイス王子の目の前に突き刺さっている大きな剣は、神話の時代に生きていたとされる邪竜ロキの息子の爪を鍛えて作られた剣だ。傍らには皇帝が倒れており、微かに口元が動くのが見えたことから今しがた決着がついたところだろう。
 オニキスたちも皇帝の周囲にいた竜族たちとの戦闘で疲弊しているようだ。肩で息をしているのが見える。

「フェイス様! お怪我はありませんか?」
「はい。私は大丈夫です。ミシェルこそ無茶はしていませんか?」

 ミシェルは一目散に主君であるフェイス様に駆け寄ると、確認できる範囲で怪我がないか見ている。俺も近づき主君の無事を喜ぶ挨拶を済ませると、この先の――邪竜ロキとの決戦の場を探しはじめる。
 アガーテが持つ聖杖による範囲回復で皆の怪我を癒すと捜索の手が増えた。それぞれ手分けして邪竜が居る場所への入り口を探していると、地面を揺らすほどの咆哮が城内に響いた。

 たしかこの部屋には地下への隠し通路があって、その先に邪竜が眠っていた場所があったはず。ゲーム内では玉座が動きその下に、書籍版では玉座の後ろにある壁を押すと通路が現れる設定だった。
 さりげなく玉座裏に歩いていくと僅かに風の流れを感じた。よく見てみると壁の一部に僅かな隙間を見つける。そこからは邪悪な気を纏い、悪意を隠しもしない呻り声が聞こえてきた。

「ルイス王子、ここだ! ここに入り口がある!」

 細かな装飾が施された石造りの壁に手をあて、力いっぱいに押す。さすがに竜族の住まう城なせいか、天井高くまで続く壁は人間の力ではまともに動かせそうもない。力自慢の者たちで力を合わせても微動だにせず、魔法による攻撃でも壊すのに時間がかかりそうだ。

「ルイス! ロキの居所がわかったの?」
「ここの壁が動くの? 私たちはルイスたちより力持ちだから動かしてあげるわ」

 他の場所を探していたらしいフギンとムニンは合流してくると、誰かに状況を説明してもらったのか竜の姿に変身する。そのまま二人で壁を押すと大きな音を立てて隠し通路の扉が開かれた。

「これが僕たちの最後の戦いだ。大陸に住まう人々のためにも必ず勝利して、愛する人々が待つ祖国へと帰ろう!」

 ルイス王子は神器を持つ仲間たちを見回し頷くと、神剣スクルドを掲げ皆の士気を鼓舞する。そして最終決戦の地である隠し通路の先――暗闇の向こうへと足を進めた。
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