01.『一目ぼれ』

 リリエンソール公爵家の跡取りとして生まれた俺は、父に連れられ初めて参じた王宮で彼女に出会った。
 この国の王女であるフェイス様は、春を想わせる若菜色の髪に俺と同じ瑠璃色の瞳。白いドレスに身を包んだ美しい少女だ。微笑まれた瞬間、頬が僅かに紅潮する。

「リリエンソール公爵家のミシェルと申します。フェイス殿下におかれましては、ご機嫌麗しく――」

 いくら子供だとはいえ公爵家の人間として恥ずかしくない言動を求められる。舌っ足らずなど在りえないと何度も練習した長ったらしい挨拶を済ませると、フェイス様が俺の前にやってきて両の手を取られる。

「メレディス以外の女の子と会うのは初めてです。どうぞ仲良くしてくださいませ」

 花が咲くような笑顔でそういわれると、見守っていただけの父上が僅かに噴出した。
 なるほど。いつもよりフリルが多い上着だと思っていたが、そういうことか。俺が今着ている服装も乗馬を嗜む女性であれば違和感がない服装だ。
 幼馴染みのメレディスは男みたいな服装を好んでいたし、趣味も乗馬や武術といった一般的な令嬢達とは異なるものだ。
 生まれつき俺の髪の毛は緩いウエーブがかかっているし、肩にかかるくらいの長さもある。現在の年齢を考えれば令嬢にしては短すぎる気もするが、同年代の女の子で面識があるのがメレディスしかいないというのであれば別段不思議でもない。
 父上のことだから態となのかもしれないが、王家と公爵家の関係を考えて、将来は降嫁してくださるかもしれない王女殿下に対してこの悪戯はどうなのだと思う。

「モンタギューよ。フェイスに嘘を教えるでない」
「いえ、すみません。ミシェルは中性的な容姿をしているので、もしかしたらと思ったもので」

 そう笑いあう父たちの表情は笑顔だし、フェイス様に到っては女の子だと思っていた俺の髪の毛を結うつもりでいたのか、持っていたリボンをどうするか思い悩んでおられる。
 あらかじめ用意していたという事は、前々から俺のことを女だと勘違いするような情報を父上が触れ込んでいたのだろうか?

「可愛らしいお名前ですから女の子だと思っていたのです……」

 眉を下げ落ち込む様子の殿下をその儘にしておくわけにもいかず、俺は侍っていた使用人に目配せし鏡と櫛を用意させた。
 この際だ。これから先、この生涯を閉じるまでお仕えすることになる相手に好きにさせてしまおう。俺としても特に困ることもなければ、王女から直々に髪結い紐を頂けると思えば名誉なことだ。そう思いながら俺はフェイス様に微笑んだ。
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