第四十九話 白百合の紋章

(改)2019/8/18
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「あの頃、私は周りとの関係が上手く行かなくなっていて、所謂引きこもりになっておりましたの。精神疾患だと医者から診断を頂いて居たので家族もそれなりに理解してくれていて、ゆっくり療養しつつちょっとずつでも何か楽しめることを探しておりましたの。そんな時に兄たちがゲーム機とソフトを貸してくれましたわ。それが旋風のレギンレイヴでした」

 なんだか重い話を聞いてしまった気もするが、レギンレイヴシリーズと出会うきっかけとなる話を聞くのは嬉しい。
 シリーズ七作目の【旋風のレギンレイヴ】は二つに割れた宝石を巡り、人間と亜人二つの国視点で話が進むマルチサイドシステムを搭載したシリーズだ。
 登場するキャラクターの数は月虹の倍近くに膨れ上がるのだが、今までは難しいと言われていた難易度やシステム面が見直されたのもあって新規ユーザーを多く取り込んだシリーズでもある。

「今までゲームというのは殆ど遊んだことが無かったのですけど、下の兄に教わりながら少しずつ進めて、いつの間にか氷花のレギンレイヴ以外はクリアしておりましたの」
「氷花は未プレイだったんだ」
「兄たちからは他のシリーズの高難易度をクリアできるようになるまでは止めておけと言われたわ」
「氷花のノーマルは旋風のハードより難しいからね」
「ええ。一番最初にレギンレイヴシリーズに手を出していた上の兄なんて『おのれ乱数』と言ってましたわね」
「命中・回避の上限が85パーセントだからね。回復出来ないとかよくあったよ」

 シリーズ最高の難易度を誇る氷花のレギンレイヴは、俺も前世では難易度ノーマルをどうにかクリアした作品だ。『どうにか』というのは仲間が何人か戦死してしまったからであって、あの作品を犠牲者ゼロ・全部の神器回収で完全クリアしたものなどそうそういない。
 特に今までのシリーズでは命中率が100パーセント固定だった癒しの杖系統にまで、命中判定が採用されたのが原因の一つだろう。酷い時は治療される側が回避行動を取ったりもしたので、素早さの高い剣士系は死亡率が高かったと思う。

「エリアスは氷の貴公子以外では誰が好きでしたの?」
「う~ん。だいたいどのシリーズでも、ミシェルと同じポジションのキャラが一番好きだったな」
「主君に叶わぬ片思いをしているイケメン貴族?」

 レギンレイヴシリーズには各シリーズに固定のポジションというものが存在している。
 俺《エリアス》であれば『ステータスが微妙な有名人』だし、フェイス様は『亡国の王女』といった立ち位置だ。
 『|イケメン貴族《ミシェル》』と『|敵国の聖騎士《オニキス》』と『|女子供は切らない剣士《ゲールノート》』のポジションのキャラはシリーズでは総じて女性人気が高かった。
 ちなみにメテオライトは『身分隠してる系』とか呼ばれていたし、マーリンのポジションなど『公式チート枠』などといわれている。

「そう、それ。彗星のキャシアスとアルテミシア王女とか後日談見て泣いたもん」
「あの二人は、互いに違う人と結ばれましたものね」
「それぞれの立場的に結ばれるのは難しいって解っていても、惹かれるんだよな」

 氷の貴公子と同じポジションのキャラクターたちは悉く片思いを拗らせていて、たいていの場合は他の女性キャラにちょっかいをかけてみたり、親しいキャラクターから女性関係が派手なことを指摘されるなど様々だ。
 なぜそんなことをしているのかと聞かれた本人たち曰く――主君の御身へ気軽に触れるなどあってはならないし、そもそも近親結婚を頻繁にしている一族の悪習を止めたいからだそうだ。
 エンディングで流れた氷の貴公子の後日談では、『その思いを心に秘めたまま生涯を終えた』と書かれていて、その前には爵位の相続と聖王家への更なる忠誠を誓ったことも書かれているのだが、これがじれったい。俺としては五作目と六作目の月蝕・天空みたいに月虹も二部作にしておいて欲しかったくらいだ。
 そして小説版や漫画版でも氷の貴公子の片思いは描かれていたが、どの媒体でも告白する場面はなく、お祭りゲームのバレンタインイベントではフェイス様の手作りチョコの行方に関してやきもきする彼を見ることができた。
 話題に挙げた彗星の登場人物であるキャシアスも他の貴族と政略結婚したし、相手のアルテミシア王女に到っては王家の存続のためだけに好きでもない男と結婚までしている。

「私も三シリーズ程遊んでようやく『仲間になりそうなのにならないキャラ』が居ることを覚えましたもの」
「ペルセウスとか仲間になったかと思ったら一時的な加入で終章手前で戦うもんな。あの時は俺もコントローラー投げた」
「そう、そうなのよ! 黒ずくめの聖騎士《パラディン》はいっつも終章手前で倒さないといけないなんて、黒やんの性癖かしら」
「あれだけ毎回出て来るってことは黒やんの性癖だろうな」

 黒やんというのはレギンレイヴシリーズの原作者で、シナリオライターの黒谷累《くろやるい》のことだ。
 SNSなどで気軽に話しかけられることから、レギンレイヴァーの間ではこの愛称が定着している。

「コホン。盛り上がっているところ悪いけど、祭壇に着いたよ」

 そういえばメテオライトも居るのだった。
 ここまで俺達二人が盛り上がっているところを水を差すことも無く静観してたって事は、俺達みたいなキャラ萌えで遊んでいたファンではなさそうだ。

 モンタギュー殿に教えられたとおり祭壇の裏側を確認すると、リリエンソール公爵家の家紋である白百合を模した紋章が不自然な位置に彫られている。ミシェルがそこに手をかざすと仕掛けが動き出した。
 重厚な音を立て祭壇の後ろの壁が動き地下へと続く階段が現れる。内部はどういう仕掛けか両サイドの燭台には勝手に火が灯されていき、ランタンの光も必要なさそうだ。

「この先に神氷ブリュンヒルドが封じられているみたいだね。さぁ、気を付けて進もう」

 あれ? ここに封じられている神器の名前は確かにブリュンヒルドなのだが、神氷って何処情報だ?
 この神器はゲームでは入手できない【ブリュンヒルド】という名前だけが設定されている武器だし、設定資料集はおろかシナリオライターの個人サイトやSNSでも特に話題に上がったこともない。

「テオ、神氷ってどういうことですの?」
「えっ? あっ、ああ……お師匠様から聞いていたんだよ。お師匠様は大公の奥方とも面識が在ったそうだし」

 何処情報かと思いきやなんてこと無い、古の魔女からの情報だった。神話の時代から生きていた彼女から聞いたというのなら間違いないな。
 この先にどのような罠が仕掛けられているかは分からないが、もし何かあっても大丈夫なように一番丈夫な俺が先頭を歩く形で隠し通路へと足を踏み入れた。
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