第四話 俺はそんなに頭がよくない

(改)2019/08/16
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 メレディスたちに連れられて、村で譲ってもらった馬を走らせること四日――俺はローレッタ聖王国の王都、アヴァロンにたどり着いた。
 ここまでの道中、俺は彼らと碌に口をきいていない。というのも、彼らが俺に対して嫌悪感のようなものを向けてくるからだ。
 なので道中は休憩などの知らせ以外で彼らが声をかけてきたことはないし、俺から声をかけることもなかった。
 転生者かもしれないと思っていたメレディスの態度も小説版通りの塩対応なので、彼女が転生者かもしれないという可能性は捨てることにした。

「騎士団長は執務室におられるわ。案内はこちらの者がしてくれるそうよ」

 そっけなく言い放つと、メレディスは騎士たちを連れ立ち去って行った。案内の人――服装などからして使用人だろう。彼の案内で執務室まで移動する。
 ロザリー公爵レックス――ローレッタ聖王国建国に貢献したオルランド卿の末裔にして、武家の名門であるロザリー公爵家の当主だ。原作では王都守護の折に、敵国の騎士オニキスに一騎打ちを申し込み敗れた聖騎士でメレディスの父親である。
 真の騎士はいないのかと揶揄されるローレッタ聖王国において唯一本物といってもいい豪傑で、ミシェルの父親である軍師のリリエンソール公爵とは旧知の間柄であり、ローレッタ聖王国に神剣スクルドか神槍ゲイレルルがあれば扱えたのではないかといわれている人物でもある。
 今まで見てきた騎士とは比べ物にならないであろう大物にあうのだ。これまでにない緊張のせいか額に汗がにじんだ。
 ノックの後に案内の使用人が扉を開け放つと、書類が積み重なった執務机の向こうに先ほどまで近くにいた彼女と同じ――少し白いものが混ざってはいるが燃えるような赤髪が見えた。

「騎士団長さま。こちらが翠緑の勇者エリアス様でございます」
「うむ。ご苦労であった。下がってよいぞ」

 使用人は俺を騎士団長――レックス殿に紹介すると部屋から去っていった。どうしよう、なに喋ればいいんだこれ。
 当の騎士団長は俺をまっすぐ見据えると鋭い眼光で睨んできた。だから異教の女神の加護持ちがそんなに嫌なら呼ぶなって!

「私はローレッタ聖王国聖騎士団を預かっているレックスと申す。エリアス殿、そなたの活躍は書状にも記しておいた通り、すでに聞き及んでいる。山陰に住み着いていた悪竜ニドヘグを退治したというその力を騎士団で振るっていただきたい」
「書状にあった通りスカウトということですか?」
「うむ。貴殿ならば知っておるだろうが、この国の騎士たちは弱い。しかしそれに気が付くことなく自らの地位に驕っているのが現状だ」

 レックス殿の言い分は尤もだ。俺がまだ駆け出しの傭兵だったころに騎士団と合同で魔物退治をしたことがあるが、正直いって邪魔でしかなかった。
 たぶんリリエンソール公爵――他人のステータスを見ることができる兵種である軍師《ストラテジスト》に頼んで、ステータスの高い村人を集めて訓練を施してもらったほうがよほど戦力になる。

「騎士たちだけではない。この国の多くの貴族が自らの財をいかに増やすか、如何にして他者を蹴落とし旨みを得るかに躍起になっている。だから私はこの国を、この国の民を一人でも多く守れるような同士が欲しいのだ」
「そこで俺のような異教の力を求めるのですか?」
「民たちは皆そなたに感謝しているという。私もその一人だ。調べてみればその女神は、シスル王国やティルナノーグの奥地にあるといわれる国で祀られている正義と秩序の神と聞く。その女神の加護を持つ君ならば私のよき理解者となってくれると思い、こうして呼び出させて貰ったのだが、本来であれば私のほうから出向くべきであった」

 レックス殿の言いたいことは、おおよそ分かった。要約すると貴族は頼りにならないから、ぶったるんだ騎士団の性根を叩きなおして国と民を守ろうぜ! といっているのだ。
 なるほど、こうして小説版にあったエリアス道場が開幕したんだな。まぁ、俺にとっては千本ノックみたいなもんだ。

「ここの騎士たちを心身共に鍛えなおしたい、という団長殿のお気持ちはわかりました。俺も騎士団は頼りないと思っていましたし、弱いものが傷つけられるのは見たくありません」
「かたじけない。今日は長旅で疲れておるだろうからゆっくりするといい。部屋を用意させておいたから案内させよう。明日は兵たちの訓練に参加してもらい、幾人かの騎士と手合わせをしてもらうつもりだから、しっかりと体を休めておいてくれ」

 挨拶をかわし執務室を後にすると先ほどの使用人が待っていて、用意したと言っていた部屋まで案内してくれる。部屋はベッドと小さな机と椅子に小さな衣類棚だけが設置された簡素な部屋だ。
 食事は部屋と食堂どちらでとるかと尋ねられたので、部屋で食べたいと伝えたら後で持ってきてくれるそうだ。なので俺はまだ整理しきれていない情報を、順序立てて思い出すことにした。

 まず現在――エリアスが騎士団に入るのは、ゲーム開始の四年前だ。戦争自体はその約一年後から始まり五年程続くが、ゲーム本編は後半の約三年ほどの期間になる。
 原作通り進めるのであれば、ここでやるべきことはミシェル、メレディス両名と友好関係を築くことと、レックス殿に気に入られ娘を娶る約束をすることだ。ミシェルには明日の訓練中にメレディスが絡んできてくれれば訓練後に会えるだろうし、大貴族である彼に媚びるようなことをしなければ、勝手に興味を持ってくれるはずだ。揶揄われ始めるのが目安。

 ミシェルの実家リリエンソール家と、メレディスの実家ロザリー家は同じ公爵家ではあるが、実はリリエンソール公爵家のほうが格上にあたる。
 理由はというとローレッタ聖王国建国まで話が遡るのだが、リリエンソール公爵家を興したのが大公スヴェル。初代聖王リーヴの弟なのである。しかもミシェルの祖母が王家から当時の公爵に嫁いだ女性なので、その地位にすり寄り甘い蜜を吸いたがる輩が寄ってくるから割と人間不信になっているとか小説版に書かれていた。
 たしか公式発表されているミシェルの信頼している人物(ゲーム本編の時間軸で存命の人物に限る)は、片手で足りるどころか余る程度の人数である。具体的にはフェイス王女とメレディスとエリアスの三人で、それ以外は戦死してしまう父親とレックス殿だけだ。

 正直、ゲーム開始前の情報は少ない。役に立ちそうなのは設定資料集に記載がある年表くらいだ。エリアスが主役のスピンオフ小説は、エリアスとメレディスがくっつくまでの話なので、役に立つ情報はここでの人間関係以外は無い。
 戦争が始まるまでに出来そうなことといえば、戦死してしまう二人に注意を促すことなのだが、そもそもなぜ一介の傭兵でしかなかった俺に、帝国が周辺諸国と手を組んで攻めてくるなんて情報を手に入れられるのかと聞かれると返せる言葉がない。
 野心深いハイドランジア王国やマグノリア王国が攻めてくるというならまだ聞いてもらえそうだが、リンデン帝国はそもそも人間の国ではないので簡単に侵入できないし情報も手に入らない。
 だめだ、無い頭ひねっても何も出てこない。こういうのは頭のいい人とする話だから、どうにかうまい言い訳を考えて相談したほうがいいな。

「やっぱりゲーム本編のほうが記憶に残るよなぁ」

 この世界の製紙技術は前世ほどではないが整っているので、明日の訓練後かそれ以外で時間のある時にでもノートを買ってきて記憶にあるすべての情報を書き出してみよう。書き出していくうちに内容を反復できるし頭の整理もしやすくなる。
 内容的に誰かに読まれると困るから、前世での言語を使えばこの世界の人たちには読めないだろう。
 いろいろと考えているうちに夕食の時間になり、先ほどの使用人が食事を運んできてくれたのでのんびりと温かい食事をとることにした。
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