第四十五話 王とは、騎士とは

(改)2019/08/18
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「グレアム殿下。シスル王国のメテオライト王子をお連れしました」

 ミシェルに紹介される形でメテオライトは一礼したのち、執務室へと足を踏み入れた。俺とオニキスもそれに続く形で室内に入る。
 グレアム殿下が仕事をしている執務室には大量の書類が重ねられており、リリエンソール家の老人たちが手分けして優先順位の高いものを振り分けているようだ。
 しかしその量が膨大なのもあってか、グレアム殿下の目元には薄っすらと隈が見えている。

「貴公がシスル王子メテオライトか。碌なもてなしもできず申し訳ないが、あまり時間が取れないので早速だが要件を伺おう」
「はい。この度は聖王国の解放を祝うとともに謝罪に参りました」
「謝罪? シスル王国軍の件か? それであれば貴公には何の関係もないだろう」

 グレアム殿下もメテオライトが十年以上前に王家から追放された事実を知っているのか、謝罪に来たと言い出したメテオライトの言葉に首を傾げる。
 帝国に与し聖王国に攻め込むことを決めたのはシスル王マーティンであり、つい先日王家に復帰したという彼には何の罪もないとでも言いたげだ。

「いえ。父には隠居してもらうことになりましたが、それで我が国の罪が消えたというには都合が良すぎましょう」
「ふむ……しかしだな」
「シスル王家はアイリス王家と並び、聖王家を守護してきた騎士の一族です。それが反旗を翻すなどあってはならないことですので、本日はシスル王家を継ぐ者として罰を受けに参りました次第です」

 さっきから妙に下手に出ているけど大丈夫なのだろうか?
 グレアム王子はメテオライトに対し悪い印象を持ってはいないようだが、ここまで言うと周りが黙っていないのではないかと心配になる。
 現に今、リリエンソール家の老人が殿下に何か耳打ちしている。

「我が国の至宝【月虹のレギンレイヴ】の所在がシスル王国軍に王城が落とされて以降、不明となっている。これに関する情報および帝国に関する情報、シスル王国軍の指揮権の委譲を条件に父上たちの件は不問としよう」
「よろしいのですか?」
「ああ。そもそもシスル王国がこちらに反旗を翻すことになったのは、一部の文官たちが原因でもある。私は先日までこの事実を知らなかったのだが、聖王国の名を笠に着ての横柄な振る舞いがあったと聞かされた」

 リリエンソール家の情報網からだろうか、『ご意見役』の横暴を知り胸を痛めいたようだ。グレアム殿下は聖王国の罪をあっさりと認めた。
 グレアム殿下とはこれまでほとんど話をしたことはないのだが、真面目で潔癖な性格をしているであろうことは察することができる。
 対価として挙げられた条件というのもメテオライトにとっては簡単なものが多いだろう。

「分かりました。まずローレッタ聖王国の至宝【月虹のレギンレイヴ】につきましては、我が軍が魔女キルケの手より守り抜き、ここにございますのでお返しいたします」

 メテオライトは先ほどの巾着袋を上着から取り出すと、近くにいた文官に手渡す。文官は巾着の口を開け中身を確認するとグレアム殿下に袋ごと渡した。
 これにはグレアム殿下も面食らったのか、驚きを隠せないようだ。

「次に帝国に関する情報ですが、数名を忍び込ませているので情報が纏まり次第になりますがご報告させていただきます。指揮権に関してはもともとお渡しするつもりで来ましたので、こちらにいるオニキス将軍から騎士たちに伝えさせます」

 この部屋に入ってからもオニキスは謎の騎士アゲートとしての姿のままであった。
 しかしメテオライトに紹介されると同時に顔の約半分を覆っていた仮面を外し、その整った素顔を晒す。

「これまで身分を隠して同行させていただいておりましたが、私の本来の身分はシスル王国軍の騎士オニキスにございます。殿下には要らぬ心労を与えてしまい誠に申し訳なく、またそのような私にも分け隔てなく接していただきましたこと深く感謝しております」
「名のある騎士だろうとは思ってはいたが、まさか【漆黒の聖騎士】だったとはな」

 オニキスは謎のコミュ力をもってしてベルトラムやアイリス騎士たちとも親しくなっていたのだが、いつの間にかグレアム殿下やフェイス王女とも一緒にお茶をする程度の関係になっていた。
 なので予想外だったアゲートの正体に軽く額を押さえながら「道理で強いと思った」と小さく呟いた声が聞こえる。

「メテオライトよ。シスル王国に封じられている神槍ゲイレルルは、そなたの手からオニキスに渡してやってくれ」
「はい。それでは早速」

 そういえば【月虹のレギンレイヴ】のインパクトが強すぎて霞んでいたが、神槍ゲイレルルまで準備しているとか、実に都合が良すぎるというか、こいつ先のこと読めてるんじゃないかという気持ちになる。
 巻かれていた布を取り払うと現れたのは、エメラルドグリーンの柄にはところどころに銀細工がなされており、石突きも柄と同じ銀で作られているのかメイスと見紛う装飾がなされている神槍ゲイレルル。大きな穂先は剣状となっている棹状武器《ポールウェポン》の神器である。
 メテオライトは取り出した神槍を両手で持つと、オニキスがその目の前に跪く。

「聖騎士オニキス――聖王の盾となり矛となり、裏切ることなく誠実であることを誓います」

 オニキスが宣誓の言葉を述べるとメテオライトは肩に添わせていた槍を持ち上げ、渡そうとしたところで金属がぶつかるような大きな音が室内に響いた。

「流石に武器重量15は重いね……」

 神槍ゲイレルルは槍の中では圧倒的に重い武器だ。メテオライトの体格は男性の魔導士系では平均値ともいえる7なので、持ち上げることはできても長時間は無理なのだろう。
 たぶん父王に突き付けた時は、背後でジェイドが石突きのあたりに手でも添えていたんじゃないだろうか?
 頑健な鎧に守られてオニキスにダメージはないようだが、後ろで見守っていたグレアム殿下は笑いを堪えているのか口元を押さえプルプルと震えている。

「さぁ! 挨拶も済みましたことですし、今後のことを話したいので私たちは失礼いたしますわね」
「ああ。ルイスたちによろしく伝えてくれ」

 笑いを堪えるために少々声は震えているが、グレアム殿下に見送られると俺たちは執務室を後にした。
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