第四十三話 聖王の眠る霊廟

(改)2019/08/18
line01
 リリエンソール渓谷を越えた解放軍は王都近くで合流してきたフェオたち二人を除く草原の民たちの助力もあって、順調に聖王国の解放を進めることができた。
 といっても渓谷での戦いで王都に配置されていた帝国軍の殆どを撃退できていたらしく、帝国の目的が聖王国の支配ではないことが浮き彫りとなる形となったに過ぎない。

 王都アヴァロンやその周辺の地域では解放を喜ぶ声が上がり、街の人々の表情にも明るいものが見え始める。
 グレアム王子は生き残っている諸侯への手紙や各所への手配に大忙しとなり、生き残っていたリリエンソール家の老人たちがそれを補佐してくれている。

 先ほどもリリエンソール家の老人たちと顔をあわせることがあったのだが、何というか怖かった。
 何が怖いって、こいつらがミシェルに渡したデルフィニウム侯爵の罪の数々の中身に『婚前に奥方へ送ったラブレターの内容』とか『若いころに書いたポエム』が入っていることを教えてきたからだ。読んだ感想を聞かせてほしかったらしいのだが、そんなもの読みたくもないし存在自体知りたくなかった。

 そして帝国がまた動き出す前にと、フェイス様が歴代聖王の眠る霊廟へ向かいたいと言い出したのはつい先ほどの話になる。
 歴代聖王の眠る霊廟にはローレッタ聖王国の神器【神光アルヴィト】と【聖杖ヘルヴォル】が共に祀られている。
 原作ではこのマップにはスケルトンなどアンデッド系の魔物が現れ戦闘になるのだが、神聖魔法が弱点なのでフェイス様の経験値と消えるのがお約束となる。

「王を弔うさい以外で立ち入ると、歴代聖王に殉じて眠る騎士たちが動き出すと聞いていたのですが……」
「全く動いていないわね」

 魔導書を持ち霊廟に入ってきたフェイス様は思っていた展開と違い拍子抜けしてしまったのか困ったような表情をしている。
 メレディスも炎の魔法はアンデッドに効果が高いからと勇んで付いてきたのだが肩透かしを食らってしまったようだ。

「まぁまぁ! 何もなく平和でいいじゃないですか。なっ、エリアス?」
「確かにそうだな。でもフェイス様に何かあっては大変だし警戒は怠るなよ?」

 炎魔法に適性の無いロビンは、わざわざ炎属性の水晶の剣を仕入れてきたというのに、この仕打ちだ。明るく振舞ってはいるが悲壮感が漂っている。
 平和に事が進むのはいいことだが、今はまだ出てきていないだけかもしれないので油断はできない。通り過ぎたところで背後から、なんて笑えない話だ。

「ふむ。この壁に描かれているのは氷竜族の言語だな」

 俺たちと共に霊廟に入ってきたマーリンが一番最初に目を付けたのは、転がっている骨でも宝でもなく、石壁に描かれている文字だった。
 この言語に関しては残念ながら俺には全く読むことができないのだが、絵も一緒になっていることからなんとなく雰囲気だけは伝わる。

「氷竜族……? マーリン様、不勉強で申し訳ないのですが氷竜族とは?」
「うん? あぁ、こちらの人間には馴染みのない話であったな。氷竜族というのは――」

 フェイス様が聞いた氷竜族というのは軍神ハールの一族のことを指す。ハール神はローレッタ大陸においては隻眼の老人という姿が定着しているので壁画の中から探すのも簡単だ。
 原作においては聖王国の至宝【月虹のレギンレイヴ】は、邪竜ロキと敵対していた氷竜ハールをはじめとする氷竜族の涙を固めて作られたものであると終盤にマーリンの口から明かされる。
 これはマーリンたちの師である古の魔女――竜族と人間の混血児によって彼らに伝えられた話らしい。
 帝国にいる竜族以外は聖王国建国の神話よりも遥か昔に未踏の地か別の大陸に移り住んでいるそうだが、邪竜の支配に苦しむ人間たちを憐れんで聖王リーヴに宝珠を授けたというのが原作からの情報になる。

「ハール神が竜族……ですか?」
「あぁ。わが師も神話の時代にそれを確認している」
「古の魔女エリウさまですね。まさか本当に神話の時代より生きておいでだったとは思ってもおりませんでした」
「この地に生きるものであればそう思っても無理はない。秘境には竜族も人も共に暮らしているが、私も修行のためにと、こちらへ出てこなければ知らぬことが多くあった」

 マーリンの話によると彼は十数年前に師である古の魔女に言われるがまま、見識を広めるために大陸各地を旅していたそうだ。
 その時たまたま知り合ったのがモンタギュー殿で幼いミシェルが魔導に興味を持ち始めた頃だったらしく、家庭教師として教鞭をとるようになったらしい。
 聖王国の文化などもこの頃に多く学んだらしく、俺がかつて秘境に連れていかれた時に感じた文化の違いをマーリンからはあまり感じられなかったのは、この辺りが影響しているようだ。

「この壁画に描かれているのは聖王リーヴたちと邪竜ロキの戦いに関する記録のようだ。当時の人間たちには共通の言語こそあったが文字という道具はまだ無かったから、氷竜ハールとの交信の際にリーヴに伝えられ現在のローレッタ文字へと進化していったのだろう」

 言われてみれば、どことなく俺たちがふだん使用している文字に似ているところがある。
 氷竜族の文字は縦線と横線を組み合わせたものが多いみたいだが、中には現在も殆どそのまま使用されている文字があるので探せば俺でも読める部分がありそうだ。
 しかし神話の時代に起こったことの記録だから、一般的な歴史書なんかに載っている以上の情報はなさそうだけどな。

 そういえば竜族との交信は俺にも経験がある。女神より加護を貰った時がそれだ。
 聖王リーヴは魔導の才を持つ者だから自力でも無意識のうちにできたみたいだが、俺の場合は古の魔女の介入が必要となり夢の世界で竜族に会うことができた。
 確かによくよく考えれば、あれを自力で見た際は『変な夢を見た』か『自分は頭がおかしいのかもしれない』などという結論に終わりそうなものである。

「描かれている内容は奥に向かうにつれて邪竜との戦い終盤へと向かっているようだ。ここに描かれているのは、現在のアンスリウム公爵家とハイドランジア王家の祖先であるディムナだな」

 アンスリウム公爵家は確か二百年ほど前に相続問題で一族が二分し、愛人の子であった長子が現在のハイドランジア王国に流され国家を打ち立て独立したのだったか。神器もその際に祖先であるディムナに順じて当時は聖王家が管理していた神炎フリストを下賜されたのだろう。

 暗い通路をランタンの光で照らしつつ、マーリンの話を聞きながら進んでいくと無数の棺が並べられている場所に辿り着いた。
 原作の情報からすると歴代聖王の眠る場所だ。神器はさらに奥の祭壇に祀られている。

「こちらは王家の祖先たちですね」

 フェイス様は入ってすぐの場所で膝をつき歴代聖王に祈りを捧げる。
 俺たちもそれに倣い祈りを捧げると、奥にある扉に足を進めた。

 聖王家の紋章である月桂樹が描かれた大きな扉の前に立つとフェイス様は手を差し出し扉に触れる。
 すると紋章が輝き、重厚な音を立てながら石作りの大扉がゆっくりと開かれた。

 扉の向こうには眼帯をつけた老人――ハール神の石像が飾られており、その手前に設置されている祭壇の上には一冊の魔導書と、先端に羽根を模った装飾がなされた杖が安置されている。
 フェイス様は真っすぐに祭壇へと向かい【神光アルヴィト】をその手に触れた時、その身は眩いほどの光に包まれた。光はすぐに収束しフェイス様の姿には特に異変は見られない。

「フェイス様!」
「メレディス、私は大丈夫です。光の中で聖王リーヴ様にお会いしてきました」

 そういえば原作でも幾つかの神器は入手イベントが特殊で、祭壇では対応するキャラクターが生存している時に専用のイベントが発生するのだ。【神光アルヴィト】と【神弓シグルドリーヴァ】と【神剣スクルド】の三つがこれに該当する。
 確かゲーム画面で見たのは聖王リーヴが子孫の無事を喜ぶと同時に、これから先に起こる困難に立ち向かう覚悟の是非を問うのだったか。

「聖王リーヴの思念に遭遇したか。どうやら君は神光と相性がいいらしい」

 マーリンの話によるとすべての神器にはかつての使い手の思念が宿っているそうで、直系の子孫でも余程のことがない限りは思念体にも会うことができないそうだ。
 そうなると原作で遭遇で来た残りの二人も神器との相性が良かったということになる。神剣はルイス王子の専用装備なので当然だが、神弓のほうは自由度があったのが問題だったのかもしれない。

 同じく聖杖も回収すると俺たちは霊廟を後にした。
 薄暗い地下から出ると外は夕日が差し込める時間となっており、入り口にはフェオたちと話し込んでいたことから置いていったアゲートが待っていた。

「無事に神器を回収できたようですね」
「はい。アゲート様は如何されましたか?」

 アゲートはフェイス様に軽く挨拶を済ませると、道を譲るように身を斜め後ろに引く。
 長身で体格の良い彼の陰に隠れていたのか、そこには見慣れない装束に身を包んでいるメテオライトが立っていた。
関連記事
スポンサーサイト



目次に戻る