第四十話 シスル王国軍と草原の民

(改)2019/08/17
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 マグノリア軍との戦闘後はたいして大きな戦いは起こらず、功を焦った小隊に対応する程度の戦闘だけで済んだローレッタ解放軍はついにローレッタ本土に上陸した。
 俺たちはこれからローレッタ聖王国の王都アヴァロンを目指すことになるのだが、天馬騎士団という偵察能力に優れる味方を得たおかげで進軍経路選びは順調に進んだ。

 天馬騎士団の報告によると、王都近くに位置するリリエンソール渓谷に布陣していたシスル王国軍はこちらの動きに反して撤退を始めており、その指揮は大隊の指揮官であるはずのオニキス将軍ではなくオブシディアン将軍が執り行っていたことから『漆黒の聖騎士が臥せっている』という噂の信憑性を強くした。
 同じく国境付近のシスル王国軍も最低限の兵力を残して本国に撤収しているらしいのだが、こちらの指揮官は見たこともない若い魔導士だったそうだ。

「シスル王国軍の動きは聖王国の制圧後は大人しいものだけど、いったい何を考えているのだろうか?」
「マグノリア王国軍は未だこちらに攻撃を仕掛けてきておりますが、たしかに不自然な動きが目立ちますな」

 地図を見ながら報告された内容を確認しているルイス王子は首をひねる。バーナード将軍もシスル軍の動きに警戒を示しているようだ。
 裏側を知っている俺としてはなんとも歯がゆいのだが、ここで話してしまうとシスル軍と行動を共にしているミシェルに危険が及ぶかもしれないので話すわけにもいかない。
 俺としては国境付近の軍を指揮していた『若い魔導士』のほうが気になる。シスル軍の魔導士キャラなどゲームには兵士Aレベルでしか登場していないからだ。一体誰のことなのだろう?

「シスル軍が撤収しているとなると、リリエンソール渓谷を突破することも可能かもしれないね」
「王都アヴァロンに居る帝国軍と挟み撃ちにするための策とも取れますし、油断はできませんな」
「渓谷を通過している時に挟撃されるのは危険だけど、あの地は狭く入り組んでいるから待ち伏せにあわなければ条件はあちらも一緒になる。高地に敵がいないことを確認しつつ慎重に進軍するくらいしか対応策はなさそうだよ」
「それにオブシディアン将軍にしては珍しく落石計などの準備も撤去せず、かの地からの撤収のみを指示していたようですな」

 原作でのリリエンソール渓谷の戦いで面倒だったのは毎ターン終わりにおこるマップ上の一定の列への落石だった。これによる固定ダメージが結構痛く、具体的にはHPが10減る。
 次に伏兵。これはマップ上の一定のラインに侵入すると急に出現する。伏兵なのだからそれは当然なのだが、うっかり誰か一人だけを侵入させると囲まれて袋叩きからのリセットコースだ。
 そして何より面倒なのが高地に配置された魔導士と弓兵。これがこの戦場の主力となる兵たちだ。ゲームの難易度によっては戦車兵《シューター》からの超遠距離狙撃も追加される。
 氷花で新たに実装された命中・回避に影響が出る【高低差】の概念が月虹には存在しなかったぶん、ゲームとして遊ぶにはまだましなのだが、今の俺にとってここは現実なので高低差も考えなくてはならない。

「うん。おそらくシスル軍はオニキス将軍の不在以外にも、なにか問題を抱えている可能性がある」
「それで急ぎ本国への撤収をしていると?」
「マーティン殿になにかあったか、マグノリアみたいに国内が二分したかってところだろうね」
「シスルで国を二分となるとオニキス将軍と派閥争いを繰り広げているマラカイト将軍ですな」
「オニキス将軍が騎士団に入って以降、若い騎士はみな彼を慕っていると聞くし古参の将たちにもオニキス将軍を支持するものが少なくないそうだから、もしシスル王国内で何か問題が起こっているとしたらそっちの可能性が高いんじゃないかなって」
「ふむ。そのあたりは密偵に探らせてみましょう」

 オニキスの評判は大陸中に知れ渡っているのでルイス王子の耳にもしっかりと入っているようだ。しかし派閥争いにまで発展しているとは騎士団って恐ろしいな。ローレッタの聖騎士団にはそういったものは無かったが、他の隊にはあったのだろうか?
 話に上がったマラカイト将軍は原作でもシスル王国軍との決着の場となる十九章に登場する老将軍で、若く人望のあるオニキスのことを目の敵にしている。
 原作ではシスル王国でも内部の腐敗が進んでいて、汚職や聖王国のご意見役への贈収賄などに手を染める貴族たちに対してオニキスが心を痛めているシーンが描写されていた。マラカイト将軍も自らの立場のために周囲への貴族へ金品などを渡していたので、原作のオニキスからしたら胃痛の原因その一かもしれない。

「他にも気になることはある。今まで無関係だったウィステリア地方の遊牧民たちが、移動を開始しているというのは一体どういうことなのだろう?」
「確かにそうですな。彼らはウィステリアの草原で暮らしているはずなのに、それが国境付近まで来ているとは……」
「草原の民は勇猛で実直だと聞く。彼らが帝国に加担することはないと思うけど」

 ウィステリア地方というのは大陸の東方に位置する広大な草原が広がる場所で、いくつかの部族が互いに均衡を保ちながら暮らしている。
 その中でも『草原の勇者』と称されるフェオは原作でも優秀な弓使いで、弓兵や狙撃手とは違い騎兵なので機動力に優れる。|氷の貴公子《ミシェル》やホープと比べてステータスが非常に高いことから、大抵のプレイヤーが【神弓シグルドリーヴァ】を彼に使用させていた。ちなみに前世はドーピングしてでも|氷の貴公子《ミシェル》に使わせる派だ。
 そしてそのフェオを慕う魔導士がラーグだ。彼もまた『草原の賢者』と称される優秀な魔導士で、風の魔法を得意としている。メテオライトが仲間になっていない場合は【神風シグルーン】の使用者候補筆頭となる。

「『草原の勇者』フェオ殿とは面識があります。正義感の強い御仁ですので、こちらへの合流を目指してくれているのかもしれません」

 ここで発言をしたのはアゲートだ。そういえば神弓シグルドリーヴァの使用者は見つかっていると話していたし、その相手がフェオだというのならば納得だ。
 フェオの正義感の強さは原作での初登場時にも見ることができる。
 マーリンに会うために死の砂漠を越え迷いの森を目指すことになったルイス王子たちはその手前、ウィステリア地方の草原でとある小競り合いに遭遇する。
 その時に登場する帝国の暗殺組織からの脱走者を助けに入るのがフェオたちだ。彼らは見ず知らずの相手だが、明らかに様子のおかしい者たちに襲われている脱走者を護るため躊躇いもなく介入する。
 ちなみにこの脱走者――ミレイユという暗殺者《アサシン》なのだが、エンディングで語られる後日談ではフェオと結ばれる。

「草原の民たちが味方となってくれるのなら心強いね」
「はい。彼らの持つ馬上からの狙撃と一撃離脱の技術は我が軍の弓兵たちでは真似出来ぬものです」

 草原の民は兵種としては遊牧民《ノマド》が多いのだが、所謂『パルティアンショット』を得意とする弓騎兵だ。縦横無尽に戦場を走り回り敵の陣形を崩す戦法を得意とする。
 ラーグのように魔導を志す者は少数派なのだが、ウィステリア地方のとある湖畔に住まう賢者ケイロンに師事するものも少なくはない。この賢者ケイロンというのは、過去にローレッタ大陸で行われた亜人種への迫害から逃れ今もこの地に隠れ住んでいるケンタウロス族の生き残りである。
 原作ゲームでは十六章クリア時に条件を満たしていると進める外伝で登場する友軍ユニットで、この外伝をクリアすると神風シグルーンを入手することができる。

「シスル軍が撤退している今がリリエンソール渓谷を突破するまたとない機会だ。進軍準備が整い次第、王都アヴァロンへの進軍を開始する!」
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