第三十一話 流れ者の剣士

(改)2019/08/17
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 ゲールノートの初撃は思ったよりも軽かった。素早さは普通についていけるというか、俺のほうが少し早いかもしれない。
 うん? あっ、そっか。今って原作よりも前の時間軸だから、ゲールノートのステータスもそこまで高くないのか。
 ゲームで仲間になるときの彼は剣士《ソードマン》レベル5くらいだったと思う。もちろん下級職。速さと技以外は一桁の可能性もあるな。

「ほう……俺の剣を受けても余裕とは、ベルトラム以来だな」
「そのベルトラムなら向こうにいるぞ?」

 なんとなく倒せてしまいそうな気がするので、ここで俺は適当に時間稼ぎをすることにした。
 こいつは根っからの戦闘狂というわけではない。自らを高めるために自分より強い奴に会いに行きたいだけだ。
 確かもとは孤児だったとシナリオライターの個人サイトに書いてあった。ゲームの公式サイトではなく関係者の個人サイトなので公式設定なのかはわからないが、原作者の書いた設定なので間違いないだろう。
 身寄りのない彼を引き取ってくれた司祭と孤児院の仲間が殺されたのをきっかけに、あまり人を寄せ付けず強さのみを求めるようになった男だが、女子供は切らないという信条はこれが関係しているのだろう。
 おそらく原作でアガーテの説得を受け入れたのも、彼女が孤児院への奉仕活動に行っていたりする僧侶だからというのもあったんだろう。

「奴はあとだ。今はお前と戦いたい」
「今ってハイドランジアに雇われているのか?」
「強い奴が来ると聞いたからな」
「誰に?」
「薄気味悪い魔導士の女だ。帝国から来たとか言っていたな」

 剣を交えたままできる限り話題を振っていると思わぬ情報が飛び出してきた。帝国の女魔導士というのは原作に出てきた魔女キルケで間違いないだろう。
 キルケはマーリンと同じく古の魔女の弟子の一人で後継者候補の一人だった女だ。だった、というのは俺が勇者となる少し前に古の魔女が正式に後継者はマーリンとしたからだ。

「なあ……その女、何か他にもお前に話さなかったか?」
「さて? どうだったか……俺は強者の情報以外はほとんど覚えん」

 合成獣《キメラ》に関して何か聞いていないかと思ったけど、話してないんだろうなぁ……。話していたとしてもコイツが興味を持たなければ本人の申告通り『覚えていない』だろうし。
 あーしかし、早くアガーテ来ないかな。何度か切り結んだ感じだと俺とゲールノートの速さの差はあっても1か2って感じだ。必殺の一撃は俺の個人スキルで封じているし、予想している力の値と武器攻撃力を俺の守備で引いてみると、たぶん入っても1ダメージなんだろうけど長引くのは嫌なんだよなぁ。

 すると神殿のほうがにわかに騒がしくなった。数人の騎士と思しき一団が取り囲むようにして連れてきたのは、白いローブを身にまとった小柄で華奢な体つきの女性だ。
 頭部はフードで隠れているが、少しウエーブのかかった淡い桃色の髪に大人しそうだが意志の強い目が見える。
 この女性こそがハイドランジア王国の民が【聖女】と慕う僧侶《プリースト》アガーテだ。

「皆さん。武器を収めてください! 私はこれ以上、この国の民が互いに傷つけ合い血に塗れる姿を見たくありません!」

 癒しの杖を強く握りしめながら、見た目には似つかわしくないほどの大きな声を張り上げる。
 アガーテの登場に敵兵はいきり立つが、彼女を護らんと戦うものたちがそれを阻止しようと立ち塞がる。

「僧侶……?」
「お前、まさか戦いの目的すら聞いてなかったのかよ」
「聞いていない」
「お前が今いる軍はあの僧侶――聖女アガーテを殺そうとしてるやつらなんだよ」
「……お前との戦いはやめだ。あの僧侶に味方する」

 その時、神殿前に殺到する敵の集団に雷の魔法が撃ち込まれた。威力からして中級魔法のライトニングだろう。
 中級魔法が使える魔導士はアイリス軍にもいるだろうが、こちらが連れてきた部隊にはいないのでおそらくは原作でアガーテの護衛騎士だった彼女が出てきたのだろう。

「己の欲に目がくらみ正義を見失った者どもよ、怒りの鉄槌を食らうがいい!」

 勇ましく声を張り上げた彼女の名はアマンダ。兵種はメレディス達と同じく魔導騎士《マギナイト》で、雷の魔法が得意な噂好きで少しミーハーなお姉さんだ。彼女がつけているのはモノクルなのだが、レギンレイヴシリーズでは珍しい眼鏡キャラでもある。
 原作で登場する雷の神器は彼女かオニキスの部下ヘリオドールしか使えないので、アマンダはある程度育てておくと活躍する……かもしれない。
 こう考えるとオニキスの部下三人って有能な奴が多いな。使用武器的に同じオニキスの部下って立場のジェイドが可哀そうだけど、槍は使用できる候補者が多いからな。仕方がない。

「弓兵! アガーテを狙え! アガーテを殺せ!」

 敵の隊長と思しき騎士が声を張り上げると数か所から矢が飛んでくる。外に配置されていた数も少ないが、城下に配置されている数も少ないようだ。
 アガーテの護衛騎士達が少し攻撃に当たったようだが、歴戦の猛者が集うとされる闘技場に出入りしている傭兵たちがカバーしたおかげでアガーテは無傷だった。

「この無能どもめ! 小娘一人も殺せんのか!?」

 まるで目標に近づかない様子に焦れたのか、敵の隊長は近くの兵に喚き散らしながら蹴りを入れている。
 おいおい。部下にそんな扱いばっかりしていると後で痛い目を見るのはそっちだぞ。

 そして俺との戦いをやめてくれたゲールノートはというと、敵軍の指揮官のほう――さっきから喚いている例の騎士に向かい進んでいる。ゲームと違って敵味方が色分けされていないから、向こうにはゲールノートの離反が伝わる由もない。
 抜き身の剣を引っ提げたゲールノートはそのまま一息で距離を詰めると指揮官の喉元を勢いよく貫いた。
 剣を引き抜いた勢いで辺りに血がまき散らさせると、何が起こったのかをようやく理解した敵兵たちは一目散に撤退していく。それを逃がすまいと騎士と傭兵たちが逃げ遅れたものたちを次々に捕らえ、縄で縛りあげられたものたちが周囲に転がされている。
 何人かのものは嫌々従っていたのか、指揮官が倒れたことを理解したとたんに武器を捨て降参のポーズをとっていた。
 さすが名が売れているだけあってゲールノートの離反は効果が大きかったようだ。アガーテ側に着いていた傭兵たちが勝利の雄たけびを上げている。
 そして捕虜から武器を取り上げ終わり、怪我人の治療を手伝っているとベルトラムが近づいてきた。

「ひと先ずここは制圧できたみてぇだな」
「お前さっき俺がゲールノートに絡まれたとき近くにいただろ。なんで来てくれなかったんだよ」
「奴《やっこ》さんとは散々やりってるからな」

 たしかにゲールノートのライバルでもあるベルトラムであれば、今までの人生で何度も剣を交えてはいるだろう。しかし俺は今日が初めてだったんだぞ!
 いくら人物の背景を知っているとはいえ、恐ろしく名の売れている剣士《ソードマン》が相手でビビったんだからな!

「王城のほうもそろそろルイス王子たちが落とせるみてぇだし、聖女様に挨拶でもしてくるか?」
「騎士の誰かが既に話してるんじゃないのか?」
「さっきまでアーネストと話してたみたいだが、今は手が空いてる」
「治療で忙しそうだしやめておく。特に話すこともないしな」

 この救援隊の先行した騎馬部隊の指揮官はアイリス騎士のアーネストだ。戦闘中という事で騎兵であるアゲートにはそちらと行動してもらっている。
 俺がアゲートの見張り役だろと言われても、そもそも機動力が違うのだから仕方がない。月虹のシステムでは仲間を馬に乗せて移動するというものがないのだ。

「エリアス殿、怪我はないか?」

 傷薬で治療できる怪我人が居なくなったところで手持ち無沙汰にしていると、(仮面で表情は殆ど読めないが)涼しい顔をしたアゲートが俺のもとにやってきた。
 なんだろう、この……散歩に出したペットが帰ってきたみたいな、そんな感じ。王城がまだ落ちていないってことは、戦闘はまだ終わっていないのだから、アーネストの指揮下にいてくれてもかまわないんだぞ?

「アゲートの旦那か。エリアスなら見ての通りピンピンしてるぜ」
「それはよかった」

 俺の代わりに返事をしたベルトラムは、ここまでの道中でいつの間にやらアゲートと仲良くなっていた。
 仮面をつけた不審者なのによくもまぁ受け入れたなってなるんだが、ルイス王子とかもこんな感じだから気にしないことにした。

「ゲールノートとの戦いが無傷で済んだ俺を褒めてくれてもいいんだぞ?」
「なんと、あの剣士と戦われたのか! 無傷ということはエリアス殿が勝利されたのか?」
「……いや。途中で聖女の味方をするって言いだしてくれて寝返ってくれた」

 あの勝負に俺は勝ってもいないが負けてもいない。どちらかといえば口先で躱した感がある。
 まぁ、それでゲールノートを味方に引き込むことができたのだから結果オーライだ。
 アゲートとベルトラムの目がなんだか少し生暖かいが、気にしたら負けだ!

 その後は態勢を整え王城へ進んだルイス王子たちの援護へ向かおうという話になったのだが、ゲーム本編より少し早いこの時間軸のルイス王子も有能だった。
 俺たちの部隊が合流する少し前にダドリーは打ち取られ、ハイドランジア軍は全面降伏していた。
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