第二話 寝ている間に武勇伝を広められました

(改)2019/08/16
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「おはよう。昨晩はよく眠れたかい?」

 朝一番でマーリンが俺の部屋に入ってきてカーテンを開ける。朝陽が眩しい。もう少し寝たい。

「昨晩は何も口にしないまま寝ただろう? 朝食を持ってきたから、しっかり食べろ」
「あ~、うん……むにゃ~」

 寝ぼけ眼のまま、俺はマーリンが持ってきた朝食に手を付ける。丸いパンにサラダとスープというメニューだ。
 むぐむぐと咀嚼し、全てを胃に流し込んだころには意識がすっかり覚醒していた。

「昨晩なんだが、酒場で知り合った吟遊詩人に君のことを話してしまってね。一晩のうちに君の武勇伝がこの辺り一帯に広まってしまったんだ」
「えっ? 俺の武勇伝?」

 なにそれ? と首を傾げながらマーリンを見つめ返す。武勇伝というとあれか、昨日の悪竜退治か。確かにマーリンの援護があったとはいえ、俺が聖剣で切り伏せたのは悪竜だ。この大陸で百年以上は姿を見なかった竜を退治したとなれば……まぁ、仕方ないか。

「この辺りの酒は呑み口が良くてな。つい深酒してしまったのだ」
「それで口が滑ったと……秘境だとあんまり酒は飲まないのか?」
「かの地の酒は無駄に強いのでほとんど飲まぬ。そして君に加護を与えた女神はわれらの地では深い信仰を集めている存在。少しでも多くの者にその存在を知って貰いたかったというのもあるな」

 俺に加護をくれた女神はこの大陸ではマイナーな女神だ。具体的には六つの国が存在する大陸において、認知されているのは一国のみ。他の信者は未踏の地にある秘境に住まう者たちだけだ。
 かく言う俺も古の魔女に呼び出され、マーリンに神殿へと連れていかれるまではその女神の存在は聞いたこともなかった。

「それでは私は森に帰ることにする。何かあったときは弟弟子のテオをつかわせよう」

 そう言い残しマーリンは去っていった。最後に彼が言い残していったテオという人間には心当たりがある。というよりマーリンもテオもゲームの終盤に二択で仲間に出来るキャラクターなのだ。二人とも魔導士系の兵種でマーリンは味方への支援&敵への妨害特化。テオことメテオライトは再行動役で最後に仲間に出来るキャラの説得係だ。
 マーリンが持つ強力な支援と妨害能力を取る者のほうが圧倒的なのだが、メテオライトが説得し仲間に出来る三騎士は、ミシェルと同じく人気があった敵国の騎士オニキスの部下たちで、彼らは揃って能力値が高いので一軍のステータスがへたれた場合などには大変お世話になるのだ。
 特に斧を扱えるキャラクターが少ないこのゲームでは最後の戦い――終章で斧の神器を装備するキャラ選びに悩むことが多く、オニキスの参謀役であるオブシディアンが仲間になれば武器熟練度もステータスも機動力も問題なく任せられる。

 閑話休題――とにかくマーリンは自らの住処に帰って行ってしまったので、俺もこの街を離れる準備をすることにした。
 たしか小説版ではこの後、本職である傭兵としての仕事を探すために大きな街――このローレッタ聖王国の王都に移動するのだったか。
 今の目的はミシェルと一刻も早く出会い交友を深めることだから、すでに騎士団に所属していると思われる彼に会うには一番手っ取り早い手段だ。昨夜マーリンが吟遊詩人に俺のことを話したということは、俺が王都についた頃には向こうにも噂ぐらいは届いているはず。

「路銀は女神の信者たちが悪竜退治の資金をカンパしてくれた分が残っているから、無駄づかいしなければ平気そうだな」

 盗まれるフラグを立てた気もするけど、まあ大丈夫だろう。ひとまずは途中で立ち寄る村までの食料や減っている傷薬などを補充して、翌日に街を出た。
 普通に歩いていけば次の村までは三日半ほどで到着する。このあたりはローレッタ聖王国でも治安がいい地域なので、山賊などに遭遇することもないだろう。
 しかし油断は禁物だ。対人戦では相当な確率で鈍ら以下になると言われている聖剣では「俺は帯剣しているよ」って威嚇にはなるが、実際に仕掛けられると困るので、荷物の中から傭兵時代に愛用していた鉄の剣を代わりに取り出し、聖剣を布に包んで袋にしまう。

「一人旅だと野宿になったときにしっかり休めないのがなあ……前世だと普通に三轍くらいしてたと思うけど、こっちじゃそうもいかないもんな」

 前世ではキャンプどころかバーベキューすらしたことがないインドア派だったのだが、エリアスが今まで生きてきた知識や経験のおかげで野営の準備は滞りなく進んだ。
 とはいえ一人しかいない関係上、横になって休むということはできるだけしたくなかったので、焚き木を前に座り浅い睡眠で一夜を過ごす。これを予想通りの日数続けられる程度に体力はあったのだが、村で宿を取ったら気が抜けてしまい暖かい夕食をとったせいもあるのか、あっという間に睡魔に襲われた。

 しかし深夜――何者かの気配を感じて飛び起きた俺は、窓の外に目をやる。闇に紛れてはいるが、武装した男たちが村のいたる場所に確認できた。目を凝らして確認した身なりからして、賊の類であろうことは一目瞭然だ。俺の睡眠を妨げるとはいい度胸だ。その喧嘩買ってやる。
 手早く革製の防具を身に着け剣を手に取ると部屋を飛び出した。宿屋の廊下には宿の経営者夫婦や、俺と同じ旅人たちが我先に逃げようと出てきて狭い通路で渋滞を起こしている。
 中には武器を取って戦おうとする勇敢なものや、明日以降の宿代がわりに賊を追い払うと主人に交渉している者もいるようだが、俺はそれらを無視して宿の出入り口を目指す。

「倉庫があったらそこに全員隠れていろ!」

 廊下にいる者たちに向かい叫ぶと宿の外へ飛び出す。今は二人くらいずつでそれぞれ民家を襲っているようだが、集まってくると面倒なことになるだろう。相手がまだ少人数で行動しているうちに各個撃破してしまいたいところだが、村人の何人かは武器を手に戦っているようなのでまずはそちらに加勢することにした。
 この世界において村人(実際の兵種名は民兵《ミリシャ》なのだが)は一番といってもいい戦力になる可能性を秘めている。なぜなら兵種スキルに【良成長】というものを所持しているのだ。なのでレベルアップした際に何もステータスが上がらないという、乱数この野郎案件が起こらない。すなわち、そこそこレベルがあれば下手な騎士より強いのだ。とはいえこの村は比較的治安の良い地域に存在しているので、彼らのレベルにはあまり期待できない。そもそも働き手である彼らがいなくなれば、これからの生活も大変だし、家族は悲しむ。
 よくみれば鍬や鉈で応戦する姿は勇敢だが、腰が引けているうえに攻撃が大ぶりなのもあってか当てることができていない。相手はそれなりに戦い慣れた賊なのだ、このままでは間違いなく怪我だけでは済まないだろう。

 俺は鉄の剣を鞘から抜き放つと、村人に加勢すべく喧騒のなかに飛び込んだ。
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