第二十一話 遭遇

(改)2019/08/16
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 道中で食料などを調達するついで情報収集に立ち寄った街は、前線から離れているのもあり普段よりは静かに感じるがそこそこ賑わっていた。
 歩兵も居ることから一ヶ月以上かけて進んできた道中は、魔物との戦闘こそあったが帝国軍に遭遇することはなかった。数もそこまで多くなかったのでそこまで時間もとられていない。
 現在位置はローレッタ王国南方に位置するロザリー要塞の近くだ。この要塞は原作でも登場し、ルイス王子たちがローレッタ聖王国の王都奪還の直前に帝国に寝返ったデルフィニウム侯爵と戦った場所である。
 とはいえ、ここには用事がないので素通りすることになる。斥候を出して確認したが要塞はまだロザリー家の騎士たちが護っているので、この地はまだ敵に侵入されていないようだ。余計な行動をして万が一、敵に王族の居所が漏れてしまっては折角の苦労が水の泡になる。

「おい、エリアス。向こうの崖の上」
「……何かいるな」

 休憩のために立ち止まったときにベルトラムが話しかけてきながら少し離れた場所を視線で指し示した。
 離れた崖の上には渡り鳥だろうか、たくさんの鳥が飛び立っていくのが目についた。

「あの高さとなると竜騎士《ワイバーンナイト》か天馬騎士《ペガサスナイト》がいるかもな」
「騎兵や歩兵だと上るだけで一苦労だろうよ」
「メレディスたちに伝えるぞ。弓兵と魔導士を援護して迎え撃つ」

 俺とベルトラムで仲間たちに声をかける。重装騎士《カタクラフト》には王族の乗っている荷車と荷物が乗っている荷車の両方を目くらましに護衛させる。
 魔導を扱えるものは同行している聖騎士団の魔導騎士《マギナイト》と傭兵隊に一人、ロザリー家から付いてきた護衛にも魔導士《メイジ》が居るのでそれぞれ魔法の準備をしてもらう。
 上空から勢いよく滑空して槍による一撃離脱が竜騎士など飛行系の兵種の戦い方だ。なので守備の高いものが壁になるように魔導士や魔導騎士の前に立つ。
 一番後ろに控えている弓兵に飛竜《ワイバーン》や天馬《ペガサス》の翼を射抜いてもらえば、それだけで敵は墜落死することになる。
 流石に向こうもこちらが迎撃の準備を整えはじめたことに気が付いたのか、黒い大きな影が十個ほど崖から飛び上がったのが見えた。シルエットからして飛竜のようだ。
 まず最初に狙われるのは守備が低い魔導士や、接近されると戦えない弓兵だから素早く動き回れるベルトラムたち傭兵がカバーしやすいように並んだ。

「ギリギリまで引き付けてから攻撃しろ!」

 メレディスの声に弓兵たちが矢をつがえる。十騎ほどの竜騎士であれば弓兵の数が多くいれば接近される前に全て片付くのだが、人数の少ないこの一行では各兵種を取りそろえるのは無理がある。
 なので弓兵の攻撃の邪魔にならないように魔導士は矢を放った後に攻撃する。四属性の中では翼を切り裂くことができる風魔法が一番効果的なのだが、ここに居る魔導士たちにも得手不得手があって全員が扱えるものではないので雷や炎の魔法が放たれる。

「おいエリアス。お前が持ってる水晶の剣も一発ぶち込んどけ!」
「忘れてた!?」

 今まで忘れ去っていたが、ベルトラムに言われて水晶の剣を持っていることを思い出した。
 ミシェルが細工したドーピングアイテムで魔力が上がった俺なら、魔導士たちと並んでも遜色はないはず。
 水晶の剣で魔法攻撃をする方法は、高く掲げて魔法名を叫べばいいだけだ。

「いくぞ。サンダー!」

 高く掲げた水晶の剣が光を放つと、大きな落雷が竜騎士を襲った。威力は申し分ない。なぜなら俺の魔力はあと1上がればカンストするのだから。
 天馬騎士と違い魔法防御が低い竜騎士には効果は絶大で、飛竜から騎士が落下するのが視界に入ったのちに、再び矢を放った弓兵の攻撃で飛竜も落とされた。
 攻撃を潜り抜け接近してきたものは聖騎士と傭兵たちで片付け、逃げようとするものは弓と魔法による攻撃の餌食となった。
 こうして戦闘は終了した。こちら側の被害は、竜騎士と直接戦闘した騎士一名が近くにいた弓兵を庇って戦死したようだ。
 怪我人もそこそこいるが、手持ちの薬でどうにかなる範囲だ。傷を癒す杖は貴重品でもあるので、出来るだけ温存しておきたいというのもある。

「竜騎士ということは間違いなくマグノリアの騎士だな」
「飛竜が生息しているのは、あの国だけだから間違いないだろう」

 先ほどから話に上がっている飛竜《ワイバーン》というのは、マグノリア王国の山岳地に生息する猛獣だ。竜と付いてはいるが竜族《ドラゴニュート》とは違う種族となる。
 同じくマグノリアに生息する天馬と相性がよく、竜騎士が隊長で天馬騎士が隊員という構成も少なくない。

「他に姿が見えないってことは斥候だった? それにしては数が多いし……」
「どこかに本隊が居るのかな? うわ~、俺さっきのでも怖かったのに」
「情けないこと言ってないでしゃんとなさい!」

 メレディスがいうように斥候にしては数が多いし、こちらを攻撃してくる意味がない。近くに本隊がいるとしたら狙いはロザリー要塞で間違いないだろう。
 さっきはあんなに頑張っていたのに終わったとたんに弱音を吐き、メレディスに怒られるロビンはもう見慣れた。このは二人けっこう付き合い長いみたいだし、昔からこんな感じだったんだろうなって思う。

「ロザリー港に向かうのは危険か……? しかしストレリチア港は海賊が……」
「グレアム兄さま。このままロザリー港を目指しましょう」
「しかしフェイスよ。ロザリー港はすでにマグノリア軍が辿り着いている可能性がある」
「いえ。まだ大丈夫です。先ほどより多くの飛竜が居れば、周囲には獣が居なくなっております」
「確かに。先ほどは遠くで鳥が飛び立ったと聞いたが、他の獣は逃げた気配がないな」
「軍用に訓練された獣以外は飛竜の気配だけで逃げだすのでしたわね。さすがはフェイス様、私すっかり忘れておりました」
「いえ。私の知識など……これくらいしかお役に立てませんですから」

 怪我人の治療をしているあいだに、王族の二人がメレディスたちとこれからの予定を話し合っていた。第二王子であるアントン王子は先ほどの戦闘が恐ろしかったのか荷車から出てこない。
 ここまでの道中でロザリー港のほうが安全であると思い進んできたのだが、先ほどの戦闘があったのでこのまま進んでいいのかとグレアム王子も悩んだようだ。
 しかしフェイス王女のいうことを考えれば、まさにその通りだろう。飛竜はその羽ばたきだけで他の獣を威嚇し怯えさせる。なのでおそらく先ほどの小隊は手柄を焦ったものたちの部隊とみていい。

 原作ではグレアム王子とアントン王子は王都陥落の際にエルドレッド王と共に処刑されているため人物像はよくわからないが、フェイス王女はゲーム本編でも序盤から出番があるのでよく知っているつもりだ。
 争いごとを好まない控えめな性格に、国を追われた自らの境遇を呪うこともなく他者を気遣える優しさをもつ王女。原作の|氷の貴公子《ミシェル》が生涯片思いをしていた相手でもある。ゲーム中で唯一、神聖魔法を装備できるユニットでもあり成長率はエリアスやミシェルなんて目じゃないほど高い。特に魔防と幸運が圧倒的に高くなる。

「先ほどの部隊は功を焦ったものたちではないかとの見立てもありますし、なるべく急いでロザリー港に向かいましょう」
「うむ。迅速かつ慎重に移動するのが賢明かもな」
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