第二十話 アイリス王国を目指して

(改)2019/08/16
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 会議の最終決定は俺とメレディスたちでグレアム殿下やフェイス王女の護衛をしつつ、アイリス王国を目指すこととなった。この一行の中にはアイリス王国のルイス王子の婚約者であるスターチス伯爵家のブリジットと、彼女の護衛の者たちも含まれている。ルイス王子と面識のある彼女にアイリス王国との橋渡しを頼む算段だ。
 原作ではミシェルがフェイス王女を連れて逃げてくるのだが、氷の魔女と呼ばれる彼女は敵の目を引き付けるためにモンタギュー殿と共にリリエンソール渓谷で敵を迎え撃つこととなったので同行はしない。
 そしてレックス殿は原作通り王都の防衛に着く。このまま進めば、きっと彼はオニキスに一騎打ちを仕掛け敗れてしまうことになるだろう。先を知っている身としては心苦しいが、レックス殿自身が決めたことだから止めようがない。彼は聖王国の騎士団長として最期までここに居なくてはならないのだ。
 原作ではフェイス王女以外の王族は処刑され、有力貴族の多くも帝国側に恭順しなかったものは見せしめに殺されている。なのでミシェルやモンタギュー殿のことも心配だ。王家の血が流れているリリエンソール家は余程うまく立ち回らなければ滅ぼされるだろう。

「さて、と。一刻も早くフェイス様をアイリスに逃がすために頑張りましょう」
「……ミシェルはこの戦、どうなると思っているんだい?」
「普通に負けるわね。マグノリアには多くの飛竜と過酷な環境で生きてきた竜騎士がいるし、シスル王国はあの漆黒の聖騎士が前線に出てきているわ。もしかしたら半年も持たずに滅びるんじゃないかしら」
「たしかに今のローレッタ軍じゃ勝てなさそうではあるけど、随分な言いようだな」
「事実よ。実際問題、この国には彼らほど鍛え抜かれ経験を積んだ騎士なんていないわ。レックスおじ様やお父様たちだってここまで大きな戦なんて経験したことはないし、この状況で聖王国に雇ってもらおうなんて思う傭兵なんていないでしょう」
「たしかにそうだけど……」

 今の状況は原作よりひどいものだ。原作では帝国の連合軍は二年ほどかけて聖王国の攻略を行っているのだが、今のペースを考えると彼女のいう通り半年持てばいいほうだろう。
 怪しい動きがあるという情報が入ってきてすぐに攻め込まれるなんて誰も思いつかないだろうし、邪竜復活の儀を聞いたあとの俺でさえあと数か月は準備期間があると思っていた。ようするに完全な不意打ちだ。

「私はフェイス様が無事ならそれでいいのよ」
「ミシェルはフェイス様のことが大好きなんだね」
「当然よ。今度フェイス様の素晴らしさを思う存分語らせてもらうわ」
「また君に会える日を楽しみにしているよ」
「えぇ、フェイス様のことは任せます。命に代えてもお守りして」

 そういうとミシェルは部下たちと共に去っていった。
 俺たちはこれから戦場となるリリエンソール領を避けてアイリス王国を目指すことになる。
 とはいえアイリス王国へ向かうには船に乗って海を越える必要がある。その為には何処かの港に向かわなければならないのだが、ローレッタ国内の港はほとんどが使えない。敵もこちらが要人を逃がすのなら海を渡ってアイリスに向かうことぐらい予想がつく。なので敵に見張られている可能性が高いのだ。
 原作ではハイドランジア領であるコナハトの港町でフェイス王女とミシェルは足止めを食らっていたのだったか。ハイドランジアはアイリス王国に隣接する国だ。なので海を越える手段はどこかにあるはずだ。

 会議で挙がった使えそうな海路は二つある。どちらも前線から離れているまだ安全な地域だ。まだ敵の手が伸びていない南方のロザリー公爵領の港町と、ストレリチア伯爵領の港町だ。二つの領は隣接しているので道中では情報収集をしながら、どちらへ向かうかを決定するしかないだろう。
 この港町のどちらかを経由してアイリスに向かうのだが、戦況は今も動き続けている。もしかしたら海路で攻めてきた敵軍に占領されていたり、戦闘の最中である可能性もある。
 護衛役も含めて全員が王族や貴族、騎士と分かりにくい服装に着替えているのだが、ちょっとした所作などで育ちの良さが見えてしまうので、情報収集は主に俺とブリジットの護衛である傭兵のベルトラムやヘレーネたちで行うことになる。

 ブリジットもベルトラムとヘレーネも原作の登場人物だ。この三人はゲームではフェイス王女たちよりひと足先にルイス王子と合流する。
 兵種《クラス》はそれぞれブリジットは魔導士《メイジ》、ベルトラムは傭兵《マーセナリー》、ヘレーネは剣士《ソードマン》だ。とくにベルトラムは強キャラの一人で、前世では序盤から終盤までお世話になった記憶がある。

「よう、久しぶりだな。暫くのあいだよろしく頼むぜ」
「頼りになるやつがいてくれて助かるよ」
「ははっ、そりゃお互い様だ」

 俺とベルトラムには面識がある。とはいえ知り合ったのは前世の記憶が戻るよりもずっと前で、勇者になるよりも前の駆け出しの傭兵時代だ。
 見習いとして入った傭兵団の一員だったのがベルトラムで、俺が勇者となる少し前にその傭兵団が解散したので、今はこうして独立して傭兵団の団長をしているらしい。

「竜を二匹も倒した竜殺しの英雄が居れば百人力ってなもんだろう?」
「スターチス伯爵領にまで噂が届いているのかよ」
「いんや。俺もお嬢も噂が流れ始めたあたりから王都に来てたんだよ。よく行く酒場で聞いたんだ」
「半分くらいは尾鰭どころか背鰭がついてるんだけどな」

 ニドヘグのことはまだしも二頭目の竜の話まで広まっているとか、どうなっているのかと思いきやなんてことない。彼は最初から王都にいただけの話だった。
 しかし百人力は話を盛りすぎだ。メテオライトめ、どれだけ俺のことを揶揄えば気がすむんだあの野郎。

「団長、移動するみたい」
「おっ、やっとか。荷馬車が五台ねぇ」
「この人数だと結構な荷物になるもんな。まぁ、荷馬車にしたのは正解かも」
「あの馬車に王族が乗ってるなんて思わねぇわな」

 アイリスに亡命する王族とその護衛の一団は全部で三十人ちょっとだ。道中でなにか聞かれた際は故郷に帰る傭兵団を装うつもりのようだ。
 傭兵団であれば騎士崩れのものも少なからずいるので騎兵が数人いても可笑しくはない。馬の維持費は結構かかるので戦場で騎乗している傭兵は多くはないのだが、評判がよく腕の立つ傭兵団ならば羽振りがいいので問題なく維持ができるのだ。

「私たち騎兵は荷車の右舷で警護になったわ。貴方たちは前方と後方に分かれて移動してちょうだい」
「承知した。エリアス、後方はお前とヘレーネに任せる」
「あぁ、わかった。何かあったら大声で知らせてくれ。お前の声はよく響くからすぐ動く」
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