第十一話 彼女への借りがどんどん増えていく

(改)2019/08/16
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 ミシェルに連れられて辿り着いた会員制の店【セスルームニル】の前に俺は立っていた。
 ここまでの道中はリリエンソール家所有の馬車で移動だったのだが、今までに乗った馬車よりも揺れが少なかったこともあって、先日のような無様な姿を彼女に見られずに済んだ。
 ミシェルが入口の小窓から会員カードを示すと、鍵の開く音が聞こえた。そのまま彼女に手を引かれ店内に入ると、ゲーム画面ではお馴染みの店主がカウンターの向こうに立っていた。

「いらっしゃい。今日はお連れさんもいるんだな」
「えぇ。こちらは翠緑の勇者エリアス様よ。彼のぶんの会員カードを発行してくださるかしら」
「はいよ。しっかし、お嬢がお師匠さん以外の男を連れてるなんて珍しいな」
「実験に協力してくださるの。それで水晶の剣はまだ残っているかしら?」
「ちょっと待ってな」

 ミシェルと店主のやり取りを黙って見物しているうちに、俺の会員カードが発行された。
 普通この手のカードって、名前とか住所とか記入する書類とか書くものじゃないのか? 何もなしに渡されたけど……そういえばゲームでこのカードを入手するのって、仲間になるキャラの一人が持参してくるんだっけ。
 すでに会員の人の紹介があればOKだなんて随分とまぁ、気前のいいことで。
 しかし水晶の剣って、ゲーム内では何種類かに分かれてたんだよな。一本目に手に入るものは炎の魔法が使えるのだが、二本目に手に入るのは雷の魔法って感じで同じのは手に入らなかった気がする。

 会員カードを財布にしまいながら店主を待っていると、水晶の剣と布に包まれた鉱石を持って奥から戻ってきた。

「これが水晶の剣だ。実験ってことはそっちの勇者さんが使うんだろ? この剣は購入する際に制約が付くんだ。最初の所有者の属性に合わせた魔法を使えるようになるから、こっちの石に触ってくれ」

 なるほど。水晶の剣の攻撃属性はこうやって決まるのか。ゲーム内では炎風雷の三種類しか見たことがなかったが、個人の属性準拠という事は、地属性とか光属性の剣も作れるという事だな。
 まあ、俺の属性はそう珍しくもない【雷】だから、ゲームで見慣れた武器に仕上がるはずだ。
 店主に言われた通りに鉱石に触れると石が変色し始める。もともと透明に近い色をしていた鉱石は、見る見るうちに黄色へと変化した。
 色の変化が落ち着いたところで石が浮遊し、無色透明な水晶の剣に吸い込まれていった。

「勇者さまは雷属性なのね。これなら他の剣と比べやすいし、ちょうどいいわ」

 代金を支払うとミシェルは水晶の剣を俺に手渡してくる。待って、ツケ増えてる。俺のミシェルに対する借りがどんどん増えてる。
 さして気にした様子もないミシェルは、その後もいくつかのアイテムを購入している。マジックストーンに関しては店にあるだけ買い占めていた。
 俺も何か買っておきたいところだが、ミシェルに貰ったカウスリップがどれくらい仕事するか判らないので、もう少し様子を見てからでもいいかと買い物はしないでおいた。

「ざっとこんなものかしら。勇者さま、そちらの荷物を持ってくださる?」
「これくらいならお安い御用だよ」

 借りは少しでも返さねば。その為なら荷物持ちぐらい楽なものだ。店主が木箱に入れてくれたのもあって持ちやすいし。
 命のしずく(最大HPが5上昇するアイテム)を幾つか買っているのは自分用なんだろうか? たしかミシェルの成長率ではHPがそこまで伸びなかったはず。
 大地の盾(守備が3上昇するアイテム)は間違いなく彼女が自分で使うためのものだろう。しかしゲーム中では気にも留めなかったが、盾を使用して守備力が上がるって一つならまだしも、複数使った場合ってどうするのだろう。すごく気になる。

「命のしずくのHP上昇値をあげられれば、私のステータスも……ふふふっ」
「俺でよければ、いつでも盾くらいにはなるよ」
「あら、そう? それじゃあ、お願いしちゃおうかしら」
「うん。お願いされちゃう」

 魔導士系の兵種《クラス》はとにかく物理攻撃に弱い。たまに固い奴もいるけど基本は弱い。なので物理攻撃は任せろ発言をしてみたのだが、良い反応を見れた。
 まずミシェルの上目づかい。あざといけど可愛い。お願いしてくるときの表情の、ちょっと恥じらった感じとかたまらないな。
 そして忘れちゃいけない胸元。やっぱりここには目が行くよな。谷間が眩しい。しかし、やはりこの視線はバレてしまうので、ミシェルから冷ややかな視線が飛んできた。

「先日も注意したはずでしてよ?」
「すみませんでした」

 こうして、たった二回の遭遇で俺とミシェルの力関係が決定した。後悔はない。
 その後は宿舎まで送って貰ったのだが、翌日の朝――騎士団の訓練場で俺は複数の騎士たちに取り囲まれた。
 みんなこの一か月ほどで、それなりに親しくなった奴らだ。初日は酷いものだったが、今では冗談を言い合える程度の関係になっている。

「あのミシェル嬢を口説き落としたって本当か!?」
「見合い現場に乱入して連れ去ったって聞いたぞ!」
「おいおいエリアス。大丈夫なのか? リリエンソール家の老人たちは怖いぞ?」

 食堂で朝食を食べている時は、みんな遠巻きになにか話していただけなのに訓練場に来たとたんにこれだ。
 俺はまだミシェルを口説いていないし、見合い現場にも乱入していない。たまたま近くを通りかかっただけだ。むしろ連れ去られたのはこちらのほうだ。
 昨日の思い出といえばミシェルへの借りが増えたことと、彼女はいい匂いがして柔らかいということが分かった。それだけだ。

「貴方たち! サボっていないで訓練に集中しなさい!」

 昨日のことをそのまま話したところで、余計な尾鰭どころか背鰭がついて広まりそうなので、適当に誤魔化していたらメレディスの逆鱗に触れた。
 俺を中心に集まっていた集団に向かって、炎魔法の基本術ファイアが飛んできたのだ。大きな火の玉から、騎士たちは蜘蛛の子を散らす勢いで逃げると訓練へと戻っていった。

「助かったよ。ありがとう」
「別に貴方を助けたわけじゃないわ。私たちが真面目に訓練しているのに、遊んでいる人たちがいるのが許せなかっただけよ」

 素直じゃないな。しかしエリアスとメレディスの最初の関係はこんな感じだ。今の時間軸は一応まだ小説版の終盤近くだろう。
 原作通り進むのであれば、あと一か月少々で彼女の態度も軟化するはずなのだが、俺にはメレディスを口説くつもりがない。というか今のこの状況でメレディスを口説き始めたら、女好きのナンパ男の称号を手に入れてしまう。
 月虹のレギンレイヴにおいて、ナンパ男のポジションはシミオンという戦車兵《シューター》だ。俺じゃない。

「今日は君から、ってことで良いのかな?」
「えぇ、このとおりクジ引きで勝ったわ」

 クジ引きというのは、この数週間の間で使われるようになった手段だ。なんでかというと、俺と手合わせしたい騎士団員が大半なので訓練の時間が足りないのだ。なので週の初めにクジで順番を決めて、六日間で全員と手合わせするというのが、ここの所の俺の午前中の訓練だ。ちなみにメレディスとは訓練終了後にも、こっそり手合わせしている。
 そういえば昨日、別れ際にミシェルから「明日は準備ができたら迎えに行く」といわれているので、せめて午後からにしてくれと願いつつ、俺は騎士団の訓練に勤しむことにした。
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