第十話 すべて仕組まれたものでした

(改)2019/08/16
line01
 メテオライトに散々からかわれた後、やっと解放されたところで俺は酔い覚ましがてら街を歩いていた。休みの日とはいえ昼前から酒を飲むなんて久しぶりだ。
 しかしさすがに王都というだけあって人の通りが多いのだが、貴族御用達の店が多い中央通りともなると歩いている人間より馬車のほうが多い。
 なんともなしに歩き回っていると、一軒のレストランからドレスで着飾った一人の女性が飛び出してきた。

「あぁっ! 勇者さま、お会いしたかったです!」
「は、ミシェル? えっ、なんでここに?」

 飛び出してきた女性もとい、ミシェルは動きにくそうなドレス姿であるにも拘らず勢いよく俺に抱き着いてきた。
 そういえば、モンタギュー殿のいってたお見合いの日付って今日だったか。あれから時間が経ちすぎていて大事なイベントを忘れるところだった。
 しかし本当に美人だなあ。柔らかいし、いい匂いもするし。このままお嫁さんに来てほしい。
 そんなことを考えていると、店の中から数人の貴族が出てきた。一人はモンタギュー殿だが他は知らない男女だ。

「ミシェル嬢! その男は誰です!?」

 まさにご立腹、といった様子の男がこちらを睨みつけて怒鳴る。まあ、自分の見合い相手が見知らぬ男に抱き着いていたらそうなるわな。
 なるほど、こいつが今日のお見合い相手か。たしかデルフィニウム侯爵家の坊ちゃんだ。
 みるからに聖王国の貴族といった男で、ゲームで見た侯爵にどことなく似ている気がする。
 そんな相手を軽く一瞥すると、俺の腕に抱き着きながらミシェルがとんでもないことを言い出した。

「まぁ、ご存じありませんの? こちらのエリアス様は、かの悪竜を退治された翠緑の勇者様ですわよ。そして私の恋人です」
「ミシェル!? そんな話は聞いていないぞ!」
「もっとちゃんとした場でご紹介したかったのに、お父様や叔父様方が私が何か話す暇もなく次から次へと話を進めてしまうのですもの。彼と私では聖王国軍での所属が違うせいもあって休暇もなかなか噛み合わないし、そもそもお父様も叔父様方も私の好みの殿方の話なんて聞いても下さらないでしょう?」

 ミシェルの見合い相手は彼女の言動に驚き慌てふためいている。というか、モンタギュー殿は俺に娘を勧めておいて、この発言とは末恐ろしい。真っ向から断るのは失礼とか言ってたくせに、しらばっくれて居る。そして俺という良い邪魔者をまんまと用意してたわけだ。だが一番混乱しているのは紛れもなく俺だ。おかげで酔いも吹き飛んだ。
 まじで? まじだよ。愛しの彼女が俺の事をお父様に恋人だと紹介してるよ。俺まだ告白すらしていないのに。俺のステータスいつの間に幸運がカンストしたんだろう……って、俺の幸運はゲームシステム的に最大30まで伸びるはずだが、現在は7だ。こないだの竜退治でレベルが1上がったけど幸運は伸びなかった、って違うそうじゃない。

 彼女は権謀術数に長ける者が多いといわれるリリエンソール公爵家のミシェルだ。原作と違いこのミシェルは女の子だが、あのミシェルなのだ。
 利用できるものは何でも利用し、信頼できるほんの一部の相手(それも片手で足りる人数)以外は打算でしか関係を持たない冷血漢の策士。基本的に誰に対しても親しげに接してはいるが、視線は冷ややか。それが原作での氷の貴公子ミシェルだ。
 現在、俺とミシェルの関係は一緒に竜を討伐し、カウスリップを譲り受けた際に少し話をした程度、単なる顔見知りレベルだ。信頼されていると言われるには付き合いが短すぎるなんてもんじゃない。ほぼ他人だ。要するに彼女が俺に抱き着いてきたのは打算。たまたま通りかかった俺を男除けに使う気なのだ、この超絶美人は。

「まあ! 私が贈ったカウスリップの首飾りを付けて下さって居るのね、嬉しいわ!」

 あっ、違うこれ! モンタギュー殿のGOサインと、ミシェルからカウスリップ渡された時点で、今日のこれに巻き込まれるフラグだったんだ。
 プレゼントのお返しをおねだりされてる。マジックストーン一つじゃ足りないってか! あれか、三倍くらいで返せばいいのか。でもカウスリップって売却不可アイテムだから値段が設定されていなかったはずだけど、どうすればいいんだ?

 先ほどの様子からして、見合い相手以外はミシェルの一族連中と、デルフィニウム侯爵家の人間のようで視線が痛い。
 物理防御は賢者《セージ》である君よりは高いと思うし、メンタルも傭兵時代に鍛えられてそれなりに図太いけど、でも、でも俺はこんな空気耐えられない!
 しかし、ここで逃げては男が廃る。でも何を話せばいいのかよく分からない!

「ねえ、これから一緒にお買い物でもいかが? いいお店を紹介いたしますわ」

 うまく言葉を返せないでいる俺に助け舟を出したつもりなのか、ミシェルに腕を引かれる。
 そのまま馬車に乗せられそうになるのだが、乗り物が苦手な俺としては断固拒否したいのが本音だ。
 しかし愛しのミシェルに誘われては断れないので、引きずり込まれるように馬車へと乗り込んだ。

「勇者さま、会員カードはお持ちかしら?」
「えっと……どこのだ?」
「セスルームニル」

 そういえば王都アヴァロンには会員制のあの店があったな。
 セスルームニルがその店名だ。いろいろなドーピングアイテムのほかに、希少な武器なども取り扱っている店。
 会員カードがないと入店すらできない店で、商品の値段はゲーム中で一番安い武器である鉄の剣の五倍ほどのものばかりだ。

「そこって確か会員制の……」
「一本だけ水晶の剣を仕入れと伺ったの」
「おれ魔力0なんだけど」

 彼女の紹介でセスルームニルに入れるようになるのは僥倖だが、なぜ水晶の剣を勧めてくるのか。
 たしかに、賢者《セージ》であるミシェルでは剣を装備できない。なので剣を装備できる人間に入荷情報を教えるのは理解できる。
 しかし俺の魔力は0! 攻撃力が魔力準拠になる水晶の剣を装備したところで、俺の魔力ではただの硝子細工だ。

「こちらは勇者さまに頂いたマジックストーンに少々細工を加えたものです。これを使えば魔力が3どころか6くらい上がるはずですわ」
「上がるはず……?」
「まだ治験はしておりませんの」
「もしかして実験台?」
「えぇ。たとえもし失敗していたとしても、身体に悪影響はないはずですわ」

 まさかここで更にカウスリップ代の徴収とは、流石はミシェル。抜かりない。
 しかし彼女の発言が恐ろしい。まったくもって一文字たりとも成功する気が起きない説明すぎる。
 だがここで断ったら、彼女からの好感度が下がってしまうかもしれない!
 それは困るのでここはミシェルの望み通り、代金を身体で支払うことにしよう。
 魔力が6もあれば水晶の剣は実用範囲になるし、駄目そうだったら水晶の剣はメレディスに譲ってしまえばいい。

「わかった。実験に協力しよう」
「勇者さまならそう仰って下さると信じておりましたわ」
関連記事
スポンサーサイト



目次に戻る