第10話 |儚い系詐欺《ゴリラ系女子》

 白魚のように透き通った肌、美しいアイスブルーの瞳、そして不思議な光沢をもつプラチナブロンドの髪の少女が立っている。無遠慮に触れたら簡単に折れてしまいそうな細い手足や、伏せ目がちな瞳とその表情から儚い印象を受ける美人の名はダリル。シリーズ四作目である『氷花のレギンレイヴ』の主人公にして、シリーズ唯一の女性主人公である。
 このダリル王女は『白雪の王女』の異名を持つほどに美しい姫なのだが、比較的新しいシリーズではもはや定着している『|儚い系詐欺《ゴリラ系女子》』の元祖ともいわれているキャラクターだ。王女という身分からは想像もつかないレベルの野生児で、険しい崖を軽々とよじ登ったり、野生の熊を取ってきては夕飯にしたりもする。
 そして彼女はその華奢な外見に似合わず、全キャラクター中もっとも力のステータス値が伸びやすい。その確率はなんとまさかの210パーセントである。通常レベルアップ時にはステータス値は上昇しても1しか増えないのだが、驚異の成長率を持つ彼女に限っては2上昇することがある。この力持ちっぷりは発売前からネタにされており、ゲームのパッケージにも使われているイメージビジュアルではダリルが恋人であるアイザックを横抱きにしているほどだ。

 そんな彼らと共にやって来たのは邪悪の樹の中層だ。邪悪の樹内部は全十階層、各5エリアに分かれている。この辺りの階層は訓練場と同じく育成に使いやすいので、少々癖のあるキャラクターのスキルの検証などにも使われることが多かった。
 ダリルの兵種《クラス》【王女《プリンセス》】は今までのシリーズに居そうで居ないものだ。性能としてはルイス王子などの兵種《クラス》【王子《プリンス》】に似た性能をしているのだが、支援関係の性能が低くなっている代わりに本人の攻撃性能が高くなっている。

「訓練場で練習したとはいえ、このスキルというものは慣れませんね。それに武器の使用回数が判らないのは不安が……」
「あちこちに崖があるから高低差も気を付けなければな」
「あの崖とか高さ6くらいありそうですね。上るのに苦労しそうです」

 ダリル王女は幼馴染で恋人でもある弓兵《アーチャー》のアイザックと慣れないシステムに苦戦しているようだ。
 こちらのアイザックという男はシリーズお馴染みの『主人公の乳兄弟』と『主人公の婚約者』の二種類のポジションを兼任している。氷花はスキルシステムが廃止されたシリーズだったので武器の種類が他のシリーズとは異なるのだが、その中にはクロスボウという武器がある。リコレクションズでは射程3の歩行弓だが、各シリーズでは射程は2~3となっている。
 しかし原作のクロスボウは射程1~2の弓として扱われていた。このクロスボウこそがアイザックの専用装備であり、命中率が高めに設定されていたことから氷花のレギンレイヴの攻略時は重宝していた記憶がある。

「いや、崖は飛行系しか登れないからな?」

 システム面の大きな違いに関して思わず口を挟んでしまった俺の一言に、ダリル王女たちは振り向きざまひどく驚いた表情を見せてくる。

「貴殿は確か月虹の世界の勇者殿だったな。神器をお持ちだと記憶しているが、差し支えなければ使用回数を教えていただけないだろうか?」
「この大陸だと武器の使用回数は無限だから気にしなくて平気だぞ」
「命中率と回避率がステータス上に見当たらないのだが……」
「この大陸では命中率は一律で100パーセント、回避は0だ」

 この辺りはタマキかドルフなどが教えていそうなものだが、氷花はシステム面が他シリーズに比べて独特なので差が大きく、覚えることが多すぎて頭に入りきらなかったのだろう。
 他の大陸の狙撃手《スナイパー》が標準装備しているスキル『正鵠』は、もとの命中率が高いせいでほぼ死にスキルみたいなものなのだが、もし氷花の世界にあったとしたら重宝されるだろう。

「治療の杖の無駄振りが起こらない……だと?」
「ここが伝説の理想郷でしたか」

 ダリル王女は専用装備として、国宝である聖剣エクスカリバーを装備している。この武器には毎ターンHPが10回復する効果が付与されており、この自動回復がレギンレイヴシリーズでは馬鹿にならないのだ。特にダリル王女たちの出典元でもある『氷花のレギンレイヴ』では命中率の上限が99パーセントなので、固定値は裏切らないのでありがたがられる。

 しかし彼らの反応を見ていると、鬼畜難易度で知られる氷花世界から来ただけあって可哀想になってくる。あの世界では敵軍だけではなく乱数も敵だし、たとえたったの5パーセントの確率でも頻繁にハズレを引き当てる。
 俺たち月虹の世界の難易度が『普通《ノーマル》』であったとすれば、氷花世界の難易度は『地獄《ヘル》』とか『狂気《ルナティック》』だろう。

「ダリルさんのスキル検証を済ませれば今日は終わりですので頑張りましょう!」

 邪悪の樹の内部に登場する敵は実装されているキャラクターの虚構あるいはモブ兵士である。リコレクションズでは魔物は殆ど登場せず、|歪みの精《ディストーション》を除けば一部のイベントマップに登場するボスだけだ。それもネタに走ったものが多い。

「しかし知っている相手と同じ姿をした敵というのはやりにくいな」
「見てくださいアイザック! あちらにもアイザックが居ます」

 今日の俺とミシェルは、ダリルたち二人のサポートという形で同行している。彼ら二人は魔法攻撃に弱い。なのでその壁役としてミシェルが、そしてミシェルのサポートとして専用のバフ持ちの俺がついて来ている。
 アイザックのスキルは額面通り捉えて問題ない汎用的なスキルで埋まっているのだが、ダリルのスキルが固有のものが多すぎてタマキは実戦でその性能を覚えたいらしい。支援系スキルは出典作品が同じであれば貰えるそうなのだが、戦闘時に使用される『氷の花』というスキルの説明文が長すぎてよく解らないのが原因だそうだ。

「向こうに竜族《ドラゴニュート》がいるので、ダリルさんお願いします」
「分かりました。任せてください」

 ダリルの個人スキルとして実装されている『氷の花』は原作でも登場する邪竜の心を封じてある『氷花のレギンレイヴ』がスキルアイコンになってた。このスキルには対|竜族《ドラゴニュート》限定で発動する部分がある。実はこのスキルは攻略サイトを見てもよく解らないという性能で、実際に使わないと本当に理解できないスキルである。
 遠巻きに戦闘を眺めているとダリル王女は原作通りの怪力《ゴリラ》っぷりで、強大な竜族ですら一撃でボロ雑巾のようになっている。

「えっと……今のHPが43で、守備が――だから竜族から攻撃を受けた時もステアップありで……う~ん?」
「他に何が気になっているんだ?」
「相手のステータスにマイナス補正が付いているのかが良くよく解らないんです。デバフと違ってステータスを覗いても見えないみたいですし」
「ダリル王女のスキルには竜族《ドラゴニュート》に強く出られる以外にも性能があるってことで良いのか?」

 俺はタマキが持つ疑問の答えを前世で検証済みなので知っているが、軍師《ストラテジスト》のようにステータス覗きのスキルを持っていないのである程度情報を聞いたうえで『戦士としての経験則からの推理』というていで話すしかないのだ。

「えっと、『竜族と戦闘時自身の全ステータスにプラス4。相手の全ステータスにマイナス3。自分から攻撃した時に相手のステータス合計が自身の攻撃と速さの和より低い場合、敵は反撃不可』ってスキルみたいなんですけど、竜族以外にも適用されるんじゃないかって文面が混ざってるんですよね」
「確かにその表現だとマイナス3とかの部分は人間やほかの亜人種にも適用されそうだな。戦闘中のダリル王女と敵の攻撃と守備の数値って見られるのか?」
「戦闘中は攻撃力は見えるんですけど守備は見えないんですよね。なのでHPの減少分で計算するしかないんですけど、ダリルさんは奥義発動しやすいので計算が難しいんです」
「ダリル王女の奥義は見たところルイス王子やセシル王子と同じように見えるが」
「はい。ダリルさんも王子様たちと同じ天属性なので、奥義は天穹《てんきゅう》ですね」

 シリーズの主人公たちは、だいたい皆共通して属性は天である。髪の色も濃淡の差はあれど青系だし、衣装は白系というのがお約束である。たまにヒロインに適用されることもあるが、たいていの主人公はこの特徴を持っている。

「見たところ、天穹の性能は『相手の守備を半減』か『攻撃力に幸運を加算する』ってところか?」
「はい、そうです。今あげてくださった二つで、相手と自身のステータス差とかを考慮して有利なほうで計算されるみたいです。でも見てただけで分かるなんて凄いですね」
「まあ、なんとなくだな」

 基本的に前者はセシル王子などの怪力系の鉄砲玉、後者はルイス王子のような柔和な人物が発動させる確率が高い効果になる。なおダリル王女は前者である。

「ダリル王女は力が強そうだから、守備半減で計算してみると分かりやすいんじゃないかな?」
「なるほど確かに。どっちか片方に目星をつけておけば計算しやすいです」

 そういうと再びうんうん唸りながらタマキはダリル王女の戦闘を観察している。俺のほうは反対側で魔導士の相手をしているミシェルと合流することにした。

「やっぱりこの奥義って属性準拠で種類が決まっておりますのね」
「うん。俺も欲しかった」
「奥義書みたいなアイテムでも実装されないかしら?」
「ほんとそれ。制限付きとかでも良いから来ないかな」

 俺のステータス欄は現在、覗いてもリコレクションズ仕様となっているせいで奥義欄が空白になっている。元の世界では習得した分しかスキルアイコンは表示されていなかったが、セフィロトでは空欄になっている分類のスキル欄も表示されるのだ。

「他の星5が少なくてデータ不足なのでよく解りませんが、雷属性の奥義ってどのようなものですの?」
「守備力を攻撃力に加算してダメージ計算が行われるやつだな。奥義ゲージも溜まりやすいから、ほぼ毎ターン発動できる」
「まあ、そうでしたの。エリアスの守備でしたら上乗せするのに充分な数値ですし、奥義書の案を投書してみましょう。それにしても私の奥義はなかなかゲージが溜まらないから羨ましいですわね」

 言いながらミシェルは氷魔法で敵を倒す。流石に魔防がカンストしているところに俺からの支援効果が重なっているので、敵の魔導士からの攻撃によるダメージは受けていないようだ。

「えっ……待ってくれ。投書ってなんだ?」
「道具屋で取り扱ってほしいもののアンケートを受け付けておりましたの。投函用の箱は化粧品など美容関係のコーナーでしたので、男性たちには余り知られていないのかしら?」

 道具屋といえば課金アイテムも取り扱っている場所だ。俺がそこで見るものは殆どない。直近で立ち入ったのはタマキが傷薬を買い込むからという理由で、男数人で荷物持ちに着いて行った時くらいだ。日用品はセフィロトからの支給品で事足りるし、趣味のものなどは街に出たほうが見つかるので今まで殆ど立ち入ったことが無かったのだ。

「しかしなんで化粧品コーナーに……まさか女性のほうが購買意欲が高いと思われているのかな?」
「う~ん。箱の場所的に口紅とかチークの色を増やして欲しいとか、そう言う募集かもしれないですわね。私も幾つか材料を取り寄せて頂きましたし。でもルートヴィヒさんとか男性……いえ、心が女性でしたら乙女として扱うのが礼儀ですわね。……そうです! エリアスもこの後、一緒に参りましょう」

 そんな感じでこの後の予定を取り付けると、最終エリアを抜ける。邪悪の塔は各階に番人である悪魔たちが存在するのだが、この階層の番人アクゼリュスは撃破済みだ。すでに攻略済みの階はボスの再登場は無く、普通のマップと同じように扱われる。

「このエリアはこれで突破ですね。このまま次のフロアに行きたいところですけど、明日は朝早いので今日はここまでにしておきます」
「どこか遠出でもするのか?」
「明日は体育祭なんですよ。リレーの選手になったんで、一位を取ってこないと!」

 そう意気込むタマキに激励の言葉をかけると、大図書館のエントランスで別れる。そのままミシェルと連れ立って道具屋を目指した。

「タマキってやっぱり高校生くらいなのかしら」
「日本人って仮定すれば十六か十七って見た目だよな」

 歩きながら前世での思い出話をしつつ道具屋を目指す。内容としては体育祭より文化祭のほうが好きだったとか、そんな話だ。

「いらっしゃい! よく来たな。何が欲しいんだ?」

 カウンター越しに出迎えてくれた道具屋の店長は、会員制の店セスルームニルの店主と同じ顔をしているが全くの別人だ。設定上では商売人一族と言うことになっているので遠い親戚では有るらしい。

「投書ってアイテムのリクエストもして宜しいのですか?」
「おう。無理のない奴なら遠慮なくどんどん出してくれ」
「エリアスたちも奥義を覚えられるように『奥義書』を作れませんこと?」
「奥義書か。……よし、採用!」

 投書用の紙を受け取りながらミシェルが聞くと店長は即決しかえしてくる。そんなあっさり――と思いつつ、店長の一言とともにミシェルに一冊の本が渡される。ぱらぱらと捲ると中身は白紙だ。

「俺は他の奴らにも頼んでくるから、お嬢はその本に氷属性の奥義を書いておいてくれ」
「えっ? えええっ! 奥義書を私が書いてしまって宜しいのですか!?」

 シリーズによって多少の差は在るが彼らは商魂が逞しい。恐らく課金アイテムとして実装するつもりなのだろう、店長はどこかへと手紙をしたためると通りかかったダアトくんに託す。そのままミシェルに渡したのと同じ白紙の書を数冊抱えると、他のスタッフに店を任せて出て行った。

「えっ? えっ? あの、エリアス。奥義書って、どのように書けば宜しいのかしら? わたくし魔導の論文は書いたことありますが、武芸の奥義なんて人に教えたことありませんのよ?」
「え~っ? 俺も武芸は基礎くらいしか教えたことないぞ?」
「どっ、どうしましょう? 図形とかで宜しいのかしら?」
「とりあえずは普段ミシェルが奥義を放つときの動作とか、心掛けているものとかを下書き替わりにこっちの紙に書いて纏めてからにしよう」
「そうですね、それが大切ですわね! えっと……フェイス様を守るわたくしカッコいい――と、魔法を放つときは指先はそろえない方が美しい。それから」

 そう言いながらミシェルが書き出した文章の半分は主語がフェイス様になっている。

「氷属性の人達って主君に対して忠実というか、一途な人が多いからそういう表現に変えようか?」
「確かに。これではラウルスにしか奥義を教えられませんわね」

 ミシェルの癖の強い文字もあって慣れていない人間には読みにくいかもしれないが、数日掛けて奥義書を完成させると店長に渡す。ミシェルたち奥義持ち達は、店長から奥義書作成の謝礼として道具屋の割引券を貰ったそうだ。
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