第07話 周回イベントとかいう苦行

 俺たちが見ているのは城内に設置されている掲示板。ゲーム画面ではイベントのお知らせや、新規キャラクターの実装のお知らせなどが記載されていた部分となる。しかし書かれている文字はどう見ても日本語で、他の戦士たちがこの掲示板に書かれている文章を確認しているところを見たことがない。
 中にはこの言語を解読しようと異国の言語を記した書物を片手に寄ってくるものもいるらしいのだが、どこにも対応する書物が存在しないことから結局は解読を諦める羽目になるそうだ。
 なお数名は一緒に掲示されるイラストを見に来ているようで、たまに何人かが盛り上がっている場面を見る。

 その掲示板に新たに書かれていたのは、今日から始まる周回イベントの概要だ。復刻イベントなので内容もよく知ったものである。『村人イベント』と言われているサービスイベントで、襲い来る山賊から村長を護り続ける連戦マップなのだが、ボーナスキャラに縛られずに攻略が進めやすく経験値も通常より多く貰えるのが特徴のイベントなので、入手したばかりのキャラクターの育成にもちょうど良い。

 サービス開始間もない時はバランス調整が上手くいっていなかったのか、このイベントの完走に求められるポイント数が多すぎて完走したプレイヤーは少なかったそうだ。しかし同じような内容の次のイベントでは課金スキップができるようになっていたので難易度自体は下がっている。
 今回のこのイベントでは復刻前と同じように、合計で|召喚の札《ガチャチケット》二十五枚とステータス強化アイテム各種十個が手に入る。他にもスタミナドリンクなど幾つかのアイテムもついてくるのだが、目玉となる報酬は復刻で配布される【☆5歩兵槍:最強の村人リック】である。当たり前だが彼の限界突破もここでしかできない。

「てぇへんなんだ。騎士さま助けてくれだ~」

 イベントマップに入ると自動的に始まるリックとの会話が終わると同時に周囲の景色が変わる。侵入地点は村の入り口だったのだが、俺たちの現在地はなぜかどこかの山の上だ。
 移動前にリックから受けた説明を簡単にすると『村長が山に行ったまま帰ってこない』『山には山賊が沢山いる』『山賊はお宝をたくさん持っている』『村長を無事に村まで連れ戻してくれば、お礼は奮発する』といったところだ。最後のは周回のポイント報酬を指している。

「私が村長です」

 護衛対象の村長のセリフは、この挨拶だけで残りは攻撃を受けた際の悲鳴だけである。戦況に関わらず脱出地点へ一直線に移動しようとする村長は邪魔以外の何でも無いのだが、戦いを生業にして居ない者にとっては死の恐怖にあてられた状態ではこんなものなのだろう。なおこの村長はプレイスタイルによっては強い殺意を覚えることになる。

「あの村長さんがいると釣り出し戦法は使えないですね」

 各シリーズ必ずといってもいいほど、村長はよく殺されている。序盤は山賊や海賊などのならず者に、中盤以降であれば敵軍や友軍から敵に寝返るような悪徳将校に切り捨てられるのがお決まりのパターンだ。
 村人は強いのに村長は弱いのがこのシリーズの謎である。一人くらい襲い来る族を返り討ちにするムキムキの村長とかいても良かったと思うが、そうなるとこのイベント自体が成立しないだろう。
 タマキは安全地帯に陣取って敵を迎え撃つ戦法を取ることが多いので、村長の存在に不機嫌な様子だ。

「今回のイベントはオニキス将軍のレベル上げも兼ねて、ステータスを盛る係に星5闇魔のメテオライトさんをお連れしました。再行動役は星4風魔のテオさんです。うちのセフィロトにはマーリンさんとかヘルメスさんといった破格なバフ担当のかたがいないので、三人で固まって行動してください」

 先日オニキスが召喚されてから数日経っているのだが、その育成はまだ終わっていないらしい。
 暇なときにメテオライトに聞いた彼の新しいスキルには『所属がシスル王国のキャラクターのステータスにプラス補正』といった性能のものがあるそうだ、マーリンほどの汎用性があるわけではないようだが大小問わずバフの存在は馬鹿にならない。しかし『奏でる』と併用でないと使えなくなっていた『水の歌』の変形であるらしい『水の心』は、所属国関係なしに隣接するだけで毎ターンHPを回復してくれるらしいので援護要因として優秀なようだ。なので今回は味方同士が分散しても回せるらしい。

「エリアスさんは私と一緒に村長さんの護衛をしながら右の道から進んでください。オニキスさん達は左の道をお願いします。エリア5のマップ入り口で合流したら、ボスを誘い出して倒してクリアです」

 ユニット名はテオとメテオライトに別れているとはいえ、二人とも揃って出撃しているのでオニキスは困惑しているようだ。なおこのオニキスは吟遊詩人のほうのメテオライトと同じ世界――原作ゲーム側の【月虹のレギンレイヴ】の世界から召喚されたオニキスのようなので、ステータスの物理方面の限界突破もしていない。

 今回の周回マップは細長い山道を進んで目的地である村まで村長を連れて行くのが目的だ。マップ数でいうと五つ、これを連戦していくことになる。クリアに掛かったターン数や自軍の生存人数に応じてポイントが溜まっていくのだが、完走するにはおおよそ五十回ほどイベントマップを回る必要がある。

「こっちの班はエリアスさんが先頭で、私もできるだけ前に出て村長さんが攻撃を受けないようにしますので頑張ってください」
「それは構わないんだが、あちらにテオたちを二人ともやらないで片方をこちらに回せば少しは楽になったんじゃないか?」
「それもそうなんですけど、オニキス将軍に経験値を集中させたいので」
「ああ。再行動させまくって戦闘数を稼ぐってことか」
「はい。なのでオニキス将軍のレベルが上がりきるまでは、私たち二人で村長さんの移動先を塞ぐ形でゆっくり進みます」

 ぐねぐねと曲がりくねった山道を村長に追い越されないよう進んでいく。敵は山賊ばかりなので戦闘は楽なものだ。
 一つ目のマップはさくさくとクリアし、二つ目のマップも特に苦戦することなく突破。三つ目のマップでは脇道が多かったせいか流石に村長にダメージが入ってしまったのだが、四つ目のマップは問題なくクリアし、現在は周回マップの最終地点である。

 ここにきてようやく道が重なり、別行動だったオニキスたちと合流することとなった。俺たちよりもひと足先に到着していたらしい彼らは『水の歌』の効果もあってHPは回復済みらしく元気そうである。

「物理壁が居るって良いことだよね」

 今までは魔導士だというにも拘らず前衛に配置されることが多かったらしいメテオライトは、オニキスという盾が来て嬉しそうだ。しかし騎馬ユニットであるオニキスに置いていかれることなく、また疲れた様子もないという事は結構な時間を待っていてくれたのだろう。

「メテオライトさんたちもお待たせしました。さあ、残るはこのマップだけです!」

 指揮杖で真っすぐと先を指し示しながらタマキは号令をかける。残るはと言ってもこの周の分であって、イベント自体を完走するにはまだあと何十回と回る必要がある。
 村を目前とした下り坂を塞ぐようにして立っている山賊たちとの戦いが済めば、まずは一周目の終了である。しかしタマキ曰くオニキスのレベルがまだマックスに到達していないとのことなので、俺は村長が出すぎないようにするための位置調整役だ。

「なあ、テオ。一日あたり何周くらいになると思う?」

 前回の周回イベントはボーナスキャラが子供系ばかりだったので、俺はそこまで多く参加していない。メテオライトも俺と大して変わらない年齢なので該当していなかったのだが、少々難易度が高いマップだったのでレアリティや性能などを考慮してか何度か連れまわされていた。
 今回の周回イベントは剣士系が使いやすいのだが、道幅が狭いので魔導士や弓兵も連れてこないと渋滞を起こすだけになる。登場する敵の種類やマップの地形によって編成は様々だが、難易度の低い単調なマップほどメンバーが固定になる。

「少なくて三回。多くて約三十回ってところだね」
「お、おう。ということは過労死寸前まで稼働する可能性もあるのか」
「使用するキャラが偏るのは仕方ないからね」

 自分から積極的に移動して、こちらへと攻撃を仕掛けてくる敵はオニキスが片付けた。残るは道を塞ぐ山賊の親玉だけだ。奴は自分の移動範囲内に敵が侵入してくると移動を開始して攻撃を仕掛けてくるので、回復や支援がしやすい布陣を作り誘い出す。そして誘い出すのも撃破するのもオニキスだ。マップボスは他よりも貰える経験値が多いのである。
 なので俺たちは暇で仕方がない。オニキスはもともとステータスが高めなので、そこそこまでレベルが上がればバフの必要もなくこの辺りの敵からはノーダメージになる。タマキと吟遊詩人とで援護すればすぐに終わりそうなので、俺はメテオライトと二人、村長が邪魔になる場所へ待機しないように陣取る。

「闇魔導士になっているから『魔典ラグナロク』でも持ってきたのかと思っていたんだが、その魔導書ってなんなんだ?」

 ぼうっと見ていてもつまらないので、俺はメテオライトが持っている見慣れない魔導書を指差し質問を投げかける。シリーズ全体で見れば闇魔法は複数知っているが、『月虹のレギンレイヴ』の世界で俺が今までに見たことがあるのは『魔典ラグナロク』だけだ。

「ああ、これ。これね……なんでか僕の出典元が『漆黒のレギンレイヴ』になってるんだけどさ。そのせいなのか、まだ入手していないはずの『幽冥の書』が手元にあるんだ。だからタマキに話をあわせるのが大変なんだよね」
「俺の出典元は『月虹のレギンレイヴ』だし、ミシェルも月虹だって言っていたぞ?」
「エルナも漆黒になってるし、なんで僕らだけこうなってるんだか」

 メテオライトの話によると『漆黒のレギンレイヴ』から実装されているキャラクターはこの二人と、弊セフィロトにはいないがジェイドとヘリオドールだけだそうだ。更新予定を考えると次回、同シリーズから追加されるのは配布キャラクターでない限り半年くらい先になる。

「セフィロト基準じゃなく、原作準拠の兵種《クラス》も漆黒仕様になっていたし……まったく、『神さま』は何を考えているんだろうね」
「前にも言っていたが、テオの言う『神さま』って誰なんだ? ハール神でも女神アストレアでもなさそうだが?」
「君もそのうち嫌でも会うことになるよ。まあ、そうだね。ケイオスって名前だけ覚えておいて」

 俺の頭のはてなは消えないままだが、メテオライトがこういう言い方をしたという事はネタバレしたくない何かがあるのだろう。『月虹のレギンレイヴ』はそれこそ無駄に何周も遊んでいたが、『漆黒のレギンレイヴ』は未プレイだったので重要部分をネタバレされないのは有り難い。

 その後は予定通り周回を重ね、遂には何十週目に突入したかも判らなくなってきた頃、マップクリア時にそれは起こった。タマキがポイント到達報酬を受け取っている脇で、メテオライトたち二人が乾いた笑い声をあげたのである。心なしか目が据わっている気もする。

「さ……山賊、山賊が沢山いる」
「メテオライト様、山賊は先ほど倒したばかりです。どうか、お気を確かに」
「もうむり、しぬ。指いたい」
「め……テオ殿も気を強く持ってください」

 オニキスに介護されながらメテオライトたちはふらふらと歩いている。さすがに何度も同じことを繰り返していればトラウマになるだろう。オニキスが育ち切ったという事で吟遊詩人テオがこちらに回されたせいもありメテオライトが遠い目をしている。
 テオから自動回復のバフが貰えない状態だと、メテオライトには敵を攻撃した時の生命吸収しか回復手段がなくなるそうなので流石に可哀そうだ。しかし彼はHPの残量によってはステータスが二倍になるそうなので戦略的には仕方がないのかもしれない。

「メテオライトさんたちが疲労で壊れて来てしまいましたし、私もスタミナドリンクを飲み過ぎてお腹が苦しいです。今日はここまでにしておきましょう」

 そう言いながらタマキはこれまでの周回で集めた報酬を両手いっぱいに抱えた。スタミナドリンクに月虹の欠片などの強化アイテム、それから|召喚の札《ガチャチケット》などを手に上機嫌な様子だ。疲れた様子など微塵もない。

「オニキス殿、メテオライト王子は俺が担いで帰るから吟遊詩人を運んでやってくれ」
「ああ。それが良さそうだ」

 俺はオニキスと手分けしてメテオライトたちを担ぐと、セフィロトの大図書館への帰路を進む。部屋まで運んでやるついでにエルナに声をかけ世話を任せると、俺も明日に備えてゆっくりと休むことにした。

 翌日、俺は周回に参加するために待ち合わせ場所を目指し廊下を歩いていた。集合時間には少し早いが、なんとなく早めに出なくてはいけない気がしたからだ。
 長い廊下を抜け広間を過ぎた辺りで、昨日に引き続き周回に参加するメテオライトたちに遭遇する。彼ら二人は待ち合わせ場所である門ではなく、正反対の方角へ向かおうとしていた。

「テオ。そっちは待ち合わせ場所じゃないぞ?」

 俺が声をかけると同時に二人揃ってゆっくりと振り向き、嫌そうな表情を見せると一目散に駆け出す。

「バフ係なんて過労死決定じゃないか! 助けてマーリンさま~!」
「再行動役が重労働なんておかしいでしょ! 助けてマーリンさま~!」

 同時に叫んだ二人は廊下を走り去っていく。正直かなり素早い。
 俺だって周回イベントなんて言うプレイヤーとの好感度が上がりやすいイベントに参加したくない。しかも期間中はミシェルとのデートの時間すら取れない。

「待て! お前たちだけ逃げるなっ!」

 今日はまだタマキは顔を見せていないが、時間的にもそろそろ声がかかる頃だろう。出撃のオーダーは昨日のメンバーと変わらないようなので、俺は逃げる二人を追い掛けて走り出した。
 しかし二人を捕まえて戻ってきたころにはタマキは既に他のメンバーと周回に向かっており、アナベル隊長からはいつでも交代できるよう『待機』を命じられたのであった。
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